056 最終局面<魔王視点>
「ふむ、順調なようだな」
「魔王様の言う通りです。我らが魔王軍が農民に毛が生えた連中に負ける理由がありません!」
ジーグルト将軍は自信に満ちた態度で語っている。
「そうだな……」
しかし、なんとなく不安が消えないのも事実だ。
戦局は最終局面を迎えていた。もう既に敵兵は撤退を始めており、戦線は崩壊している。
「追撃せよ! 1人も逃すな!」
ジーグルト将軍が指示を出す。指示は通常であれば正しいのだが、敵兵の動きに違和感を感じる。敵兵は散り散りに逃げるのではなく、1箇所に向かって逃げているのだ。
「待て! 深追いをさせるな!」
我が指示を出したと同時に、両脇の森から人間族の軍が姿を現した。
「人間だと!? 人間と結託したというのか! 魔族の誇りを捨てたのかグオーガ!」
ジーグルト将軍が怒りの声を上げるが、今はそれよりも大事なことがある。
「陣形を整えるのだ! 挟撃されるぞ!」
我の指示で、兵達は混乱の中動き始めたが時既に遅し。少なく見積もっても人間の軍は1万は超えており、魔王軍は完全に窮地に陥った。
みるみるうちに魔王軍の兵が減っていく。このままでは数刻のうちに魔王がいる場所まで人間の軍が押し寄せるだろう。
「魔王様! お逃げください!」
ジーグルト将軍が進言する。
「王が逃げることなど出来ぬ!」
「この戦に負けても、次の戦で勝てば良いのです! ここで魔王様が万が一倒れたら国が終わってしまいます!」
たしかにジーグルト将軍の言う通りかもしれぬ。それに目的はソニアの奪還だ。ラングが上手くやってくれるはずだ。
「……分かった。撤退しよう」
「撤退だ! 魔王直属軍は魔王様を護衛しつつ撤退しろ!」
前後左右を直属軍に守られながら撤退を開始した。しかし、その歩みはすぐに止まってしまう。
「ガッハッハッハ! どこに逃げるつもりだ? 魔王様よぉ〜」
前方から道を塞ぐようにグオーガ率いる部隊が現れた。グオーガ……しばらく見なかったが、戦わなくても分かる。奴は魔王である我よりも強い。
「魔王様をお守りしろー!」
「うおおおおおお!!」
魔王直属の兵達がグオーガに襲いかかる。だが、グオーガの持つ剣の一振りで虫ケラのように殺されていく。
「魔王様、私が時間を稼ぎます。どうにか自力で逃げてください」
「ジーグルト将軍、どうせ我らは助からぬ。ならば、未来のために出来るだけ多くの敵を道連れにしようではないか」
「魔王様……分かりました。派手に行きましょう」
我は我が持つ最大級の魔法を唱えながらジーグルト将軍と歩き出すのだった。
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