034 鉄喰い

 禁止エリアに入る為の扉を開けた直後、目の前には狼ほどの大きさのイモムシのような何かが大量にうごめいていた。目は無く、大きな口にダイヤモンドのような歯が並んでいる。


「鉱石を食ってるな。こいつが鉄喰いに間違いなさそうだ。というか、サイズ的には鉄喰いの子供か。パイソン、ライトニング10連射!」


『レベルアップ! レベルが3003になりました』

『レベルアップ! レベルが3004になりました』

『レベルアップ! レベルが3005になりました』


 範囲型の雷魔法で大量の鉄喰いの子供は一掃された。改めて周辺を見渡すと、過去の侵入者達の白骨死体が転がっている。


「侵入者の末路か。ん? 新しい死体もあるぞ」


 俺は一番近くにあった新しい死体に近づき、少し調べてみることにした。死因は何か? どんな連中なのか? 目的は何か? を把握しておいたほうが良いと思ったのだ。


「死因は鉄喰いの子供と戦って負けたようだな。ん? この鎧と剣のマークは見たことがある。こいつは……グオーガが好んで装備につけていたマークか!!」


 一瞬怒りの感情が湧き起こるが、冷静に分析する必要があると思い直した。グオーガはよく部下の兵士の装備にもマークをつけるよう強制していた。つまり、この兵士風の死体はグオーガの部下ということか。


 だが、グオーガは魔王軍を追い出されたはずだ。この死体はかなり新しい。


「魔王軍を追放されたグオーガが私兵団を作ったということだろうか? だが、何故このダークドワーフ坑道へ……?」


 グオーガの目的について考えていると


「だ、誰か……助けて、くれ……」


 瀕死の兵士を見つけた。


「大丈夫か? これを飲め。上級ポーションだ」


「すまない……少しだけ楽になった……」


「そのマーク、グオーガの部下なのか?」


「そうだ。よく知っているな。俺はグオーガ魔帝国の兵士だ。助けてくれ。レアな金属を取りに行けと命令されて仕方なく来ただけなんだ」


 グオーガは昔から部下の人使いが荒かったが、今も部下に無茶な命令をしているようだ。そんなことを考えていると突然兵士が苦しみだした。


「ぐ……ぐあああああ!」


 兵士の胸を食い破って鉄喰いが飛び出して来た。兵士の中に寄生していたのか、それとも兵士の下に隠れていたのか。胸部を食い破られた兵士は息絶えた。


「!? ライトニング!」


 俺がとっさにライトニングを放つと鉄喰いは丸焦げになった。


「グオーガ。国を作るなんて、何やってるんだ? 魔王に討伐されるぞ。もし俺が四天王なんかになったら討伐を命令されたりして……なんてな、俺はまだまだ実力不足だ。もっと強くならなければいけない」


 馬鹿な妄想を止めて現実に向き直る。俺はもっと強くなる為にも、パイソンに呪文を書き込んだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


for count in range(1000):

  five_senses = input()

  if five_senses == '敵を見つけた':

    print('敵に近づいて斬る')

    print('ドロップアイテムをアイテムボックスに入れる')


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ゴールドダンジョン攻略時に使った呪文。手当り次第に倒していけばいつかは鉄喰いにたどり着くという作戦だ。


「探索開始!」


 通常では捉えられないような微かな音や振動を感じて敵を見つけ出し、魔剣テンペストブリンガーで斬っていく。


『レベルアップ! レベルが3006になりました』

『レベルアップ! レベルが3007になりました』

『レベルアップ! レベルが3008になりました』

『レベルアップ! レベルが3009になりました』

『レベルアップ! レベルが3010になりました』


 大量の鉄喰いの子供を倒し続けたおかげで大量にレベルアップした。そして、ついにたどり着いた。


「おい、嘘だろう……ここまで巨大とはな。ミニデスナイト、お前は下がっていろ」


 目の前には50メートルを超える巨大な鉄喰いが横たわっていた。眠っているようにじっと動かない。ミニデスナイトが巻き込まれないように下がらせておく。パイソンの呪文はまだ実行中で止まれない。


「このまま攻撃するしかない……ッ!」


 俺の身体は自動的に鉄喰いに接近し、魔剣テンペストブリンガーで何度も斬りつける。だが、鉄喰いの表皮は硬く全く歯が立たない。


 鉄喰いは目を覚ましたようで、こちらに目も鼻もなく口しかない顔を向けて牙を剥いた。ちょうどパイソンの呪文は終了したようだ。


「剣が効かないなら魔法はどうだ? パイソン、ファイアーボール!」


 ファイアーボールが鉄喰いの表皮にぶつかり爆発する。どうやら表皮は少しだけ焦げたようだ。


 ダヒュッ!


 鉄喰いの口から液体が飛んでくる。俺がとっさに避けた地面に着弾し、地面が溶け蒸気が上がっている。少しだけ頬にかかり火傷する。


「スライと同じ酸が得意技か、嫌な事を思い出させやがる」


 ちょっとイラッときた。こうなったら、とことんやってやる。パイソンの書に呪文を書き込む。


「パイソン、ファイアーボール5000連射!」


 ドドドドドドドドドドドドドド……!!


 鉄喰いの巨体はファイアーボールの閃光と爆発で覆われた。


「ギョアアアアアアアアア!!」


 気味悪い鳴き声を上げる鉄喰い。そこそこのダメージは与えられたようだ。鉄喰いの表皮は黒く焦げ、ポロポロと剥がれている箇所も見受けられる。


「このまま行けるか……!?」


 畳み掛けようとした瞬間、鉄喰いは巨体を大きく揺らし体当たりしてきた。経験したことがない衝撃が全身を襲い、俺は壁まで吹き飛ばされた。


「ぐはっ!!」


 喉の奥から血がせり上がってくる。内蔵を損傷したようだ。


「パ、パイソン、アイテムボックス」


 苦しみに耐えながらアイテムボックスから上級ポーションを取り出し少しずつ飲んでいく。


「プハァ……危ないところだった」


 鉄喰いは俺を見失ったらしく、追撃はしてこなかった。その代わりに、周囲に酸を撒き散らし、敵を寄せ付けないようにしたようだ。


「まるで酸の海だ。あれじゃ近づけないな。近づけないなら遠距離攻撃をすればいいだけなんだがな」


 俺はパイソンの書にある以前書いたドラゴンファング投擲とうてきのページを開いた。そして呪文を改変する。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


for count in range(1000):

  print('アイテムボックスから魔剣テンペストブリンガーを取り出す')

  print('魔剣テンペストブリンガーを鉄喰いに全力で投擲する')


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 以前書きあげた呪文を改変することで短時間で呪文を書き込むことが出来る。


「お返しだ! テンペストブリンガー連射!!」


「ギョギョアアアアアアアアアァァァァァ」


 硬かった表皮はファイアーボールで剥がれ落ちている為、魔剣は深々と突き刺さっている。いくら鉄喰いといえども魔剣1000本を受けたらひとたまりもないだろう。


「やったか!?」


「ブキュウウウウウウ」


 鉄喰いはかなり弱っているが倒れなかった。その代わりに聞いたことがない音と共に鉄喰いの口が膨らんでいく。


「まさか酸を溜め撃ちするつもりか!?」


 俺は急いで魔剣を構えると剣に魔力を集中させる。間に合うだろうか? 間に合わなければ大量の酸を浴びてポーションを使う間もなく即死するだろう。


「ブバアアアアアアアアア!!」


 鉄喰いが大きく口を開けると大量の酸が放出された。酸は津波となって押し寄せてくる。だが、こちらも用意が整った。


「テンペストオオオオオオオオオオオオ!!」


 俺は上段の構えから魔剣を振り下ろすと、猛烈な強風が吹き荒れ津波を押し返す。更に無数の真空の刃が発生し、鉄喰いの口の中、内蔵までをもズタズタに引き裂いていった。そして、鉄喰いは口から内臓を吐き出し、息絶えた。


『レベルアップ! レベルが3210になりました』

『スキルレベルアップ! パイソンのレベルが7になりました』


「おお、レベルが200も上がったのか。しかもパイソンのレベルまで上がったぞ」


 死んだ鉄喰いを見ると吐き出した内蔵の中に虹色に輝く物があった。


「目的を忘れるところだった。これが鉄喰いの核か?」


 見る角度によって色を変える不思議な鉱石だった。俺は目的の物をアイテムボックスに記録し、ダークドワーフ地下要塞に帰還した。

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