032 ダークドワーフ地下要塞

「ここがダークドワーフ地下要塞か。本当に地下にあるんだな」


 ダークドワーフ地下要塞はその名の通り地下にあり、広大な地下空間の中に街が出来上がっている。地下だが、ヒカリゴケの明かりによって生活するのに十分な明るさが保たれている。


「私は数年前に一度来たことがあります。魔王軍の武器のほとんどはこの都市で作られていると聞いています。しかも、この街には伝説の名匠が居るんですよ。私の剣もその方に作ってもらったんです」


「伝説の名匠か。いいな。俺もその名匠が作った剣を手に入れたいところだな。だが、とりあえずは宿を探そうか」


「そうですね。宿の場所も覚えています。私に付いてきて下さい」


 ソニアに案内された宿に入る。


「いらっしゃいませ〜2名様ですか?」


「ああ、そうだ。これで泊めてもらえないだろうか?」


 俺はアイテムボックスから金塊を取り出す。


「物々交換で部屋を!?」


 物々交換で宿を取る光景を初めて見るソニアは驚いているようだ。


「お客様、この鉱山資源に恵まれた都市では金塊はそれほど価値が高くはありません。残念ですが、金塊では部屋を用意できかねます」


「む。そうなのか。他に何かあったかな……あ、これならどうだ?」


 俺は100年ウイスキーや15年ワイン、魔法都市の領主からもらった酒など数種類の酒を取り出す。


「こ、これは幻のウイスキー!? それにこっちは滅多に手に入らないヴィンテージもののワイン!! お客様! すぐにスイートルームをご用意致します!」


 それを聞いたソニアが急に赤い顔になり何か慌てた様子だ。


「スイートルーム……。い、一緒の部屋に泊まるのですか? まだ心の準備が……。 でも、どうしてもと言うなら……」


「いや、一緒の部屋じゃないぞ!? ちゃんと2部屋取るから! 2部屋でお願いします!」


 かなり広めの部屋を2部屋確保することが出来た。この地下要塞では酒の価値がとても高いようだ。その日は旅の疲れがあった為、そのまま寝てしまった。


 次の日、ソニアと相談し色々な店を回ってみることにした。


「このアクセサリー可愛い上に攻撃力+5の効果も付いているのですか……悩む」


「この短剣は氷属性が付与されているのか。これで野菜を切ったら鮮度が保てたりしたら便利だな」


 ソニアと街を歩きながら気になったアクセサリー屋に入ってみたり、武器屋に入ってみたりして色々と見て回った。


 第三者が見たらデートだと思われたかもしれないなと思いながら隣を歩くソニアを見ると目が合ってしまった。ソニアも同じような事を思っていたのだろうか。


「あ、こっちです! あそこに見える工房が伝説の名匠の鍛冶屋です」


 俺達が鍛冶屋に入ってみると、中は真っ暗で人が居るようには思えない。だが、暗闇に目が慣れてくると暗がりにダークドワーフらしき人物が居ることに気づいた。


「……誰だ?」


 のっそりと奥から出てきたダークドワーフはよく見ると盲目だった。


「お久しぶりです。カザドおじ様」


「その声はソニア嬢ちゃんか!」


「はい、ソニアです」


「どれ、ワシが作った武器をメンテナンスしてやろう」


 ソニアが細剣を渡すとカザドと呼ばれたダークドワーフは剣を触りメンテナンスを始めた。


「ところで、横の彼氏は何の用だ?」


 カザドはメンテナンスをしながらこちらに質問した。


「か、彼氏……」


 ソニアは顔を赤くして困っているようだ。俺はアイテムボックスから魔剣テンペストブリンガーを取り出すと作業台に置いた。


「俺はラングだ。この武器より強い武器を作れるか?」


 カザドはメンテナンスを中断し、魔剣を手に取った。


「こ、この剣は……! 伝説の魔剣ではないか! 硬度、切れ味、魔力、装飾の全てが最高レベルの剣と言っていいだろう」


「無理か?」


「この剣を超えるとなると難しい。だが、素材さえあれば可能だ。ダークドワーフ坑道を知ってるか?」


「いや、知らないな。ここには来たばかりでね」


「先祖たちが鉱石を掘り進めた結果、迷宮化したのがダークドワーフ坑道だ。その最奥は侵入禁止エリアとなっている。そこでは当時、貴重な鉱石が大量に発見されたのだが、巨大なも同時に見つかったのだ」


「鉄喰い?」


「鉄喰いと呼んでいるが、あらゆる鉱石を食べる虫だ。怒り狂った鉄喰いに鉱夫達は全滅させられた。その後、何度も討伐隊を送ったが帰ってくる者は居なかった」


「そこで鉱石を取ってこいと?」


「いや、取ってくるのは鉄喰いの核だ。ワシはその核こそが最高の金属に仕上がっていると確信しておる」


 カザドは見えないはずの目でこちらをじっと見つめてからこう約束した。


「鉄喰いの核を取ってきたら、その魔剣を超える最高の剣を作ってやろう」


「分かった。必ず鉄喰いの核を取って来るから、期待して待っていてくれ」


「伝説の名匠が剣を作ると約束するなんて凄いことですよ。魔王であるお父様なんて5年間通って頼み込んでようやく作ってもらえたんです」


「そうなのか?」


「ああ、あの時はワシも頑固になっていたからなぁ。ソニア嬢ちゃんの剣を作るのだともっと早く教えてくれたら即決だったのだがな……。よしっ、メンテナンスは終わりだ」


 カザドがソニアに剣を返す。


「そうですか? それなら嬉しいです。では、ラングさん鉄喰いを倒しに行きましょう」


 ソニアが早速出発しようとすると


「すまんが、ソニア嬢ちゃんには他の材料を取ってきて欲しいんだが、頼まれてくれるか?」


「え? は、はい。分かりました」


 少し不満げな顔をしたソニアだったが、渋々了承したようだ。カザドとソニアは材料についての詳しい話をするようなので俺は先に冒険者ギルドに行くことにした。



 冒険者ギルドの受付でダークドワーフ坑道について聞こうと思ったのだが、受付には小さな女の子しか居ない。


「すまないが、冒険者ギルドの受付を呼んでもらえるか?」


「あたしが受付ですけど?」


「いや、受付ごっこじゃなくて大人の受付の方を呼んでほしいんだ」


「こう見えてもあたしは大人だーーー!」


 大声で怒られ、改めてよく見てみたがどうやら本気で言っているようだ。ダークドワーフの女性はこの見た目で成人しているようだ。


「すまなかった。ダークドワーフ坑道に行きたい。地図や情報が欲しいんだが、何かあるか?」


「地図は10銀貨です。ただし、参考程度にしておくほうがいいですよ。なにせ今でも坑道は掘り進められていますから」


「そうか。では、地図をくれ。あと、鉄喰いについて何か情報はないか?」


 地図を受け取り、代金を払った。10銀貨くらいなら問題なく払うことが出来る。


「まさか鉄喰いに挑むつもりじゃないでしょうね? やめておきなさい、命を無駄にする気!?」


 受付のダークドワーフは慌てて引き留めようとする。


「いや、興味があるだけだ。気にしないでくれ」


 俺は余計な詮索をされる前に冒険者ギルドを出て、ダークドワーフ坑道へ向かうことにした。

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