030 決意
翌日、いつもの癖で魔導ダンジョンに向かおうと宿を出た。すると突然声をかけられた。
「おはようございます、ラングくん」
「ああ、おはよ……う?」
プラチナブロンドの長髪が揺れている。紅い瞳は真っ直ぐに俺に向けられている。魔都デモンズパレスで見た美しい少女ソニアだった。
「え〜っと、魔王直属軍の副隊長様でしたっけ?」
「やっと会えたのに、そんな他人行儀な呼び方は酷いです。ソニアと呼んでください。……昔のように」
最後の方は声が小さくてよく聞こえなかった。
「うん? ちょっとよく分からないけど、そういうならソニア、俺に何か用か?」
もしかして死んだことにして魔王軍を抜け出して来ていることがバレているのだろうか。それは不味いぞ。
「私と来ていただけませんか? 魔王四天王の座を用意しています」
「え!? 四天王は既に4人埋まっているんじゃないのか?」
グオーガ、ラクネ、スライ、カラベの4人だ。
「いいえ、四天王は今カラベのみです。グオーガは度重なる任務失敗により魔王軍より追放されました。ラクネは戦争を起こした罪により同じく追放。スライは勇者との戦いで戦死したとのことです」
「そうだったのか、知らなかったな」
グオーガ達に勝てるくらいの強さを求めてレベルアップを繰り返してきたが、その必要はなくなったということだろうか?
いや、魔王軍を追放された程度では何も変わらないだろう。俺が生きている事を知ったグオーガは俺を殺そうとするに違いない。
「いや、そんなことよりも俺を四天王にするつもりなのか? 何故、俺なんだ?」
「偽勇者からイナカ村の危機を救い、ゴールドダンジョンを
やっぱり最後のほうは聞こえなかったが、そうか、俺の行動は全て魔王軍に筒抜けだったようだ。
「頼めるのはラングくん以外には居ません。どうか、一緒に来てくれませんか?」
上目遣いで頼み込んでくる仕草はとても可愛らしいが、俺は俺自身が四天王になる資格があるのか疑問に思っている。俺はまだまだ弱いのではないかと。
「じゃあ、1つ頼みがある。それを見てから決めたいと思う」
「頼み……ですか? 私に出来ることなら何でもしますが」
「ソニアが本気で戦うところを見てみたい。そうだな、魔導ダンジョンのキングリッチを倒してくれないか?」
「理由はよくわかりませんけど、それが見たいのですよね? いいですよ。さっそく向かいましょう」
ソニアは歩き始めるが、魔導ダンジョンの方角とは真逆の方向に歩き始める。
「ソニア、そっちには魔導ダンジョンはないぞ。こっちだ」
「え!?」
ソニアは赤い顔をしながら俺が向かう方向についてくることにしたようだ。
――1時間後、俺達は魔導ダンジョン50階に来た。以前ならば数日かかっていたが、今は全力ダッシュで1時間で到達出来る。
「もう50階ですか。早いです。さすがはラングくん。道案内としても優秀ですね。それに後ろからついてくるミニデスナイトもかわいいです」
「道については3ヶ月間毎日のように通っていたからな。ミニデスナイトは戦いも加勢してくれるし便利だぞ」
ボッ! いつものように左右に青いかがり火が灯った。そして王の玉座にキングリッチが姿を現す。
「じゃあ、始めますね。ダークエンチャント」
ソニアは目を奪われるほど美しい細身の剣を抜き放つと、付与魔法をかけ、刀身は真っ黒に染まった。
スンッ!
何の予備動作も無く剣が振るわれ、遠く離れたキングリッチの首が地面に落ちた。戦闘開始してからたったの5秒しか経っていない。
「こ、ここまで差があるのか……」
今の俺はどれだけ頑張ってもキングリッチを倒すのに5分かかる。魔王直属軍副団長との力量差を思い知った。
「ふう、どうでしたか? これが私の本気です。というかキングリッチでは本気を出す前に倒してしまいますね」
「ありがとう。やはり俺は力不足のようだ。魔王軍四天王の役目については丁重に辞退させていただく」
「な、何故ですか!?」
「俺がソニアと肩を並べて戦う資格はないことを痛感した。四天王の任務を行う暇があったらもっと強くならなければいけないと思う」
「そうですか……残念です」
「こんなところまでわざわざ来て貰ってすまないな」
俺はもっと強くなる為に、この街を出ることを決意した。
ソニアと共に街に戻った俺はソニアと別れて宿に戻った。そしてリタとラビリスを集めて決意した事を語った。
「突然だが、俺は次の街に行かなきゃならなくなった。リタとラビリスは学園を卒業したら魔都で待っててくれ」
あと9ヶ月間、強くなるために装備を整え、レベルアップを続ければきっと四天王に勝てる実力が身についているはずだ。そしてソニアと肩を並べることも出来るかもしれない。
「そんな! 急すぎますよ。それに、私はラングさんが旅立つのならついて行きます!」
「駄目だ。学園で得られるものはきっとリタの助けになるだろう。中途半端にするのは勿体ない。それに、9ヶ月後に見たこともない支援魔法をかけてくれるんだろ?」
「ずるいですよ。そんなこと言われたら
「リタさんの事は私に任せてください。変な虫がつかないように見張りますの」
変な虫って女学園だろうに。
「まぁ、しっかりと学園で学ぶように頼む。俺はダークドワーフの街に行って武器防具を揃えるつもりだ。その後はレベルアップの為にダンジョンを渡り歩くことになるだろう。気が向いたら手紙でも書くから心配しないでくれ」
「分かりました。絶対に手紙をくださいね?」
「ああ。じゃあ、またな」
俺は宿を出て次の街、ダークドワーフ地下要塞に向かって歩き出した。すると突然隣から声が聞こえてきた。
「私もついていきます。お父様には連れ帰るまで戻らないと伝えてありますから大丈夫です」
「ソニア! 俺はこれから強くなるために旅立つんだぞ? やめたほうがいいと思うけどな」
「……」
俺は忠告したが、ソニアは決意した眼差しで見つめてくる。
「はぁ、分かったよ。好きにしてくれ」
「認めてもらえて良かったです」
ソニアは嬉しそうに歩き始める。
「ちょっと待て! そっちは森だぞ! どんだけ方向音痴なんだよ!」
俺はソニアの手を掴み引き止めた。柔らかい感触に少し緊張してしまうが、仕方がない。
「ソニアは俺にちゃんとついてくるようにしてくれ。迷ったら置いていくからな」
「は、はい……」
顔を赤くしたソニアを連れてダークドワーフ地下要塞への道を歩いた。
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