026 キングリッチ
――2日後、俺は50階層に到達した。
「やっと着いたか。敵を倒すのは魔法で一発だから割と楽だったけど、ダンジョン自体が広い上に迷路のように分岐が多いから手間取ってしまった」
俺は周囲を見渡して確認する。
「暗くてよく見えないが大広間だな。攻略情報では、ここにボスが出るはずなんだよな。たしかキングメタルスライムだったっけ?」
ボッ!
俺が数歩歩くと、左右に青いかがり火が灯った。そのかがり火は真っ直ぐに続いている。一番奥に王の玉座が用意されている。
王の玉座はかがり火に照らされて青く光っていたが、突如玉座の中央に巨大な闇が生まれた。
「なんだあれは……?」
目の前に現れたのは、キングメタルスライムではなかった。あれはたしかキングリッチ。
「キングリッチが出るだなんて攻略情報には無かったぞ!」
ダンジョンでは稀に条件を満たした場合にのみ現れるボスが出現する。通称エクストラボスと呼ばれるが、条件が判明しているエクストラボスは数えるほどしか存在しない。
そして、エクストラボスは大抵ボスよりも強いのである。実際に目の当たりにすると、寒気がするほどの負のオーラを感じる。
「伝承ではキングリッチに挑んだ騎士団が全滅したり、名のある冒険者が殺されたりしたんだったか。――パイソン」
俺はパイソンの書を用意して、まずは小手調べに魔法を撃ってみることにした。
「ファイアーボール10連射!」
10発のファイアーボールがキングリッチに向かうがキングリッチは避ける気配すらない。
「マジックバリア……」
キングリッチはマジックバリアを展開することでファイアーボール10連射を防いだ。魔法は効かないようだ。俺は魔剣テンペストブリンガーを構えた。
「ここまでの階層は魔法しか効かない敵ばかりだったのに最後の最後に魔法が効かないボスとはな……」
魔法使いで編成したパーティーで挑んだ場合、全滅もありうるのではないか。ダンジョンに意思があるとしたら悪意を感じるな。
「デスナイト召喚……」
キングリッチの周囲に魔法陣が展開される。魔法陣の中からゆっくりとデスナイトが生まれでた。キングリッチが俺を指差すとデスナイトが俺目掛けて走り出す。
「シールド!」
俺はシールドの魔法を展開し、デスナイトの斬撃を防ごうとした。
パリンッ!
「嘘だろ!?」
シールドはデスナイトの斬撃により簡単に打ち砕かれた。俺はとっさにテンペストブリンガーで迎撃する。
ギィンッ!
デスナイトの持つ大剣と俺のテンペストブリンガーが真っ向からぶつかる。力は互角のようだ。だが、素早さは若干俺のほうが高い。大剣をいなしてすり抜けざまに膝関節を斬り飛ばす。その勢いのまま回転し、デスナイトの首も斬り落とそうとした時
「フレイムランス……」
キングリッチが魔法で生成した炎の槍をこちらに飛ばしてきた。俺は横に大きく飛び退き、なんとか回避に成功する。しかし、その短期間でデスナイトの脚は元通りに再生してしまったようだ。
「フレイムランス……」
キングリッチの魔法がこちらに飛んでくる。それ追うようにデスナイトもこちらへ迫ってきた。
「パイソン、魔法ボックス!」
俺は魔法ボックスで防御しつつ、魔法を記録することに成功した。そして、魔法の向こうから現れたデスナイトの首を斬り落とした。
『スキルレベルアップ! 剣術レベルが3になりました』
キングリッチはフレイムランスが不発な上にデスナイトが倒されて動揺しているようだ。俺はその隙を逃さない。一足で間合いを詰めてキングリッチを袈裟斬りにした。キングリッチは大ダメージを負ったが、まだまだ倒すことは出来ないようだ。
「隔絶された不死……」
キングリッチの周囲に闇のオーラが発生する。なんとなくだが、魔法ではなく固有スキルを発動したような気がする。
「どんなスキルだ? 試しに攻撃してみるか」
俺は一瞬でキングリッチに接近し、胴を横薙ぎに斬りつけた。
キィン!!
しかし、闇のオーラによって弾かれてしまう。
「まさか物理無効……? 魔法も効かないのにどうすればいいんだ?」
俺が驚いている間にキングリッチはデスナイトを再召喚した。どうやらキングリッチは守りを固めて攻撃はデスナイトに任せるつもりのようだ。
「不死者相手にこのまま持久戦に持ち込まれると不利だ。なんとかダメージを与える方法を見つけなければ……」
俺はまず確認するためにキングリッチに魔法を撃ってみることにした。試すのは先程記録したフレイムランスだ。
「フレイムランス!」
「マジックバリア……フレイムランス……」
キングリッチのしわがれた声が響き渡る。俺のフレイムランスは防がれ、お返しとばかりにフレイムランスが飛んでくる。俺はすぐ近くに転がっていた石柱の影に隠れてやり過ごす。
「やっぱりこうなるよな……ん?」
足元に転がっている石ころをなんとなく拾い上げる。
「投石か……試してみる価値はあるかもしれない」
キングリッチのフレイムランスが途切れる瞬間を狙って、石柱の影から躍り出る。見るとデスナイトがすぐ近くまで接近しているが、俺はそれを無視してキングリッチに全力で投石した。
ドゴッ!
「グオオオオオオオ!!」
「そうか! 闇のオーラは近接物理防御だったんだな。だったら、これでどうだ!」
俺はパイソンの書に呪文を書き込む。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
for count in range(1000):
print('アイテムボックスからドラゴンファングを取り出す')
print('ドラゴンファングをキングリッチに全力で
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「ドラゴンファング連射!」
短剣がまるで残像を残すかのように連投される。
「ギャアアアアアアアアア!!」
石とは比べ物にならないダメージがキングリッチに蓄積されていく。デスナイトの斬撃は致命的な物以外は無視し、キングリッチを倒すことに専念する。
何百本目か分からないほどドラゴンファングを投げた後、ハリネズミのようになったキングリッチは灰のように崩れ、召喚されたデスナイトも黒い霧となって消えた。
『レベルアップ! レベルが755になりました』
「やっと倒せたか。ちょっと苦戦したな。倒すのに1時間以上かかってしまった。でも、経験値的にはかなり良いな。もっと早く倒せるようになれば美味しい敵だ」
デスナイトの斬撃を無視していたせいで身体中に切り傷が出来てしまい全身傷だらけだ。上級ポーションを頭から浴びて傷を治した。
キングリッチの灰の近くに宝箱が出現した。中身はやはり魔導書だった。
「これだけ苦戦した相手だ。どんな魔導書か楽しみだな」
俺は魔導ダンジョンの攻略を完了し、数日ぶりに宿へ帰るのだった。
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