003 魔剣ダンジョン攻略失敗<グオーガ視点>

「ラングの奴をクビにしてせいせいしたな!」


 俺様はダンジョンの通路を歩きながら言う。ずっと追放する機会を待っていたのでストレスで禿そうだ。


「そりゃそうよ! あんな貧乏神が部下に居たらわたくしの品格が疑われてしまうわ!」


 ラクネも同意する。


「……死ンダ」


 超酸スライムのスライが片言でしゃべる。発声器官がないので、無理やり声を出しているようだ。


「ああ、死んだだろうな。102階から丸腰で回復薬もなしに降りるのは不可能だ」


 俺様の完璧なる予想では5分と持たずに死ぬはずである。


「ええ、グオーガでも無理ね」


「ああ!? 俺様なら余裕だ! ケンカ売ってんのか!?」


「四天王同士の争いは魔王様に禁止されているぞ……」


 カラベがどこを向いているのか分からない黒い眼を俺様とラクネの方に向ける。


「いやだわ、冗談に決まってるじゃない。グオーガもそうよね?」


「ふん、当たり前だ。魔王様に歯向かう気は無い……だが、この荷物を運ぶのは面倒だな」


 俺様が手に持っている荷物を持ち上げて言う。


「じゃあ、ラングを追放しないほうが良かったっていうの?」


「いいや、そうじゃねぇ。俺様が今こうやって荷物を運んでいるのもラングのせいだってことを言いたいのさ」



 ――1時間後。


「おかしいな。中級回復ポーションはどこだ?」


 俺様がモンスターとの戦闘で傷を負った為、ポーションを探しているが手間取っている。


「まだなの?」


「うるせぇな! 俺様は荷物持ちじゃねぇんだよ!」


「ラングだったらすぐに取り出していたじゃない」


「チッ、魔都に戻ったらすぐに代わりのアイテムボックス持ちを雇うぞ!」


 俺様はやっと見つけた中級回復ポーションを一気飲みすると、空瓶を床に叩きつけた。



 ――4時間後。

「……迷っタ」


「おい、誰かマッピングしてねぇのか!?」


「マッピングはラングの仕事だったでしょ! 誰もやったことがないし、どうするのよ!」


「おい、スライ! なんとかしろよ!」


 ビュッ


 スライの酸が地面を溶かす。


「目印にすル」


「おお! 出来るならもっと早くやれよ!」


「ダケド、魔力消費激しイ」


「魔力ポーションを飲むしかねぇか……」


 こうして難は逃れたが、マジックポーションの在庫がどんどん減っていった。



 ――8時間後。


 俺様達は149階にまで到達した。


「……もう回復アイテムが無いわよ」


 回復ポーションを探していたラクネがつぶやいた。


「もう回復アイテムが尽きただと!? ラングに任せていた時はこの量で問題なかったはずだ!」


「じゃあ、なんでアイテムが尽きるのよ! まさかラングのスキルでアイテムを生み出していたとでも言うつもり!?」


 俺様は余りにも突飛な意見にため息をついた。


「はぁ……そんな馬鹿な話があってたまるか。奴は無能で非力で不潔な他人をイラつかせるただの人型だ」


「でも、どうするのよ? 引き返すの?」


「150階の中ボスを倒せばレアな魔剣が手に入るかもしれんのだ! このまま進むぞ!」



 ――更に1時間後。


「もうダメ……わたくしは離脱します」


 150階のボスに散々にやられたラクネは瀕死の状態だった。手に持っているのは緊急脱出用の貴重な帰還用アイテムだ。


帰還リターン!」


 ラクネの姿が一瞬光り輝き転移する。


「……スライ……限界……帰還リターン


 スライも帰還した。


「おい! ふざけんな! 2人だけじゃ倒せねぇぞ!」


 俺様は、イラつくが帰還すべき状況は理解している。既に俺様もカラベも瀕死の状態である。


「グオーガよ、先に帰還するがいい。それがしが時間を稼ぐ」


「それしかないようだな。糞ムカつくが、帰還するしかねぇな」


 俺様はあのラングにも預けなかった緊急脱出用の貴重な帰還用アイテムを使用しなければならないことに心底イラついた。


「畜生が! 帰還リターン!」


 こうして、四天王の魔剣ダンジョン攻略は失敗に終わったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る