004 魔都デモンズパレス
俺は急いで魔都デモンズパレスに戻ってきた。
自宅は魔王軍から貸し出された部屋があるが、もう帰ることは出来ない。それに魔王軍四天王が魔剣ダンジョンから帰ってくるはずだ。俺はすぐに準備をして魔都を離れる必要がある。
急ぎ足で街を歩いていると、魔都の門を通って来る一団が目に入った。
まずい! もう帰って来たのか!?
そう思ったが、違ったようだ。
「きゃー! ソニア様よ!」
「魔王直属軍の副団長ソニア様だ。人間達の
民達が拍手して歓迎している。
俺は、魔王直属軍の先頭を首無し
太陽の光で輝くプラチナブロンドの長髪と紅い
俺がしばらく見つめていると、ソニアと目が合った。ソニアは微笑みながらこちらに小さく手を振った。すると脳裏に一瞬、幼い頃に少女と遊んだ記憶が蘇った。
「うわ! ソニア様がこっちを見て微笑んでくれたぞ!」
「お前じゃねぇよ! 俺に微笑んだんだ!」
隣で騒ぐ民衆のせいで現実に引き戻された。気づくと、もう魔王直属軍の一団は通り過ぎた後となっていた。
「何をしているんだ俺は……こんなところでボーッとしている暇はないぞ!」
気を取り直して、魔都を出る準備をしなければいけない。まずは、魔剣ダンジョンで手に入れた素材を冒険者ギルドに売ろう。
魔王軍に入れなかった者達は冒険者となり、未開拓の土地を探索したり、ダンジョンで金稼ぎをしたりしている。俺も魔王軍を解雇されたので冒険者になるほうがいいだろう。
冒険者ギルドで冒険者登録を行い、魔剣ダンジョンの素材をいくつか売った。金貨10枚ほどになった。これだけの金があれば魔都を出る為の準備金としては十分だ。ちなみに魔剣ダンジョンの素材とは【折れた剣】だ。溶かせば魔鉄となる為、高額で売れる。
しかし、俺はつい忘れていたのだ。俺には最悪のスキルがついているという事に。
金貨10枚を手に持ち、浮かれた気持ちで街を歩いていると橋があった。俺が行きたい店は橋を渡ってすぐの場所である。橋の中央まで来た時である。
「兄ちゃん危ないよー! どいてどいて!」
荷物配達の子供が俺にぶつかりそうになった。俺は慌てて避けた。その直後、手の中にあった金貨10枚が無いことに気づいた。
チャリン! チャリリン!
「あ……」
10枚の金貨は全て橋から落ち、川を流れていった。つまり、こういうことだ。俺には貧乏LV10というスキルが付いており、1金貨以上を所持すると何故か落としたり盗まれたりするのだ。
ちなみにアイテムボックスに金貨を入れると消滅した。貧乏はパイソンより上位に位置するらしい。もしくはスキルLVが負けているからだろうか?
この貧乏スキルのせいで冒険者となって地道にコツコツと貯金する方法は選べなかった。
俺の夢は大金持ちになって大豪邸に住むことだ。貧乏スキルさえなければすぐにでも実現出来るのに……。
「はぁ……所持金ほぼ0になってしまった。こうなったら最終手段しかないか」
俺は橋を渡り、目的の店に来た。色々な料理が並ぶ屋台だ。
「すみません! 物々交換でもいいですか?」
そう、物々交換作戦だ。田舎ならともかく魔都でそれをするのはかなりの勇気が必要だ。
「はぁ? あんちゃん金がないのか?」
「はい、ポーションや素材ならあるので交換してもらえませんか? こちらは赤字でも構いませんので」
「うーん、そこまで言うならいいけどよ。その素材を冒険者ギルドでも商業ギルドでも売ればいいのに……」
「ありがとうございます! その地獄風スープと、ミノタウロスの串焼きと、マンドラゴラのパンをください」
店主の後半の言葉をあえて無視して、強引に購入した。とにかく食料が欲しかった。何故なら携帯食料はものすごく不味いから。
「これで準備はもういいかな。本当は野宿の準備や、料理道具なんかも欲しいけど物々交換が面倒だ」
魔都で目立つ事はしないほうがいいだろう。一泊したら早朝に馬車に乗って出来るだけ遠くの村へ行こう。
物々交換でなんとか宿の部屋を借りて、やっと一息ついた。
「ふう、ところでパイソンのスキルLVが上がってたか。少し試してみよう。パイソン!」
手のひらの上に本が出現する。パイソンの書に呪文を書き込むことでスキルを発動出来るのである。
例えばアイテムボックスからアイテムを取り出すときはこのページに書かれた呪文だ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
itembox = open('アイテムボックス', mode='r')
items = itembox.read()
print(items)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
こんな感じに呪文を書くことでアイテムボックスからアイテムを取り出せるのだ。
新しく覚えたfor文の詳細説明を見ることが出来た。例文もあったのでちょっとアレンジして試してみる。
パイソンの書に意識を集中すると、呪文が書き込まれていく。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
for count in range(10):
print('腕立て伏せをする')
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
そのページに触れながら実行と念じると、俺の体が勝手に動き出し、腕立て伏せを10回すると止まった。
「なるほど、この呪文で同じ行動を繰り返すようになるのか。じゃあ筋力トレーニングが簡単に出来て便利じゃないか!」
その夜、1000回腕立て伏せをしたせいで、腕が上がらなくなった。
翌日、早朝に起きた。腕は猛烈な筋肉痛だが、なんとか動かせるようだ。
ちなみに筋力トレーニングの効果はすぐにステータスに現れた。
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ラング 17歳 男
レベル:100
HP:1000(10✕100)
MP:1500(15✕100)
攻撃力:200(2✕100)
守備力:100(1✕100)
器用さ:100(1✕100)
素早さ:100(1✕100)
知 性:100(1✕100)
幸 運:100(1✕100)
スキル:パイソンLV2、貧乏LV10、剣術LV2
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おわかりいただけただろうか? 攻撃力の基礎値が2に上がったおかげで攻撃力が2倍になったのだ!
「これは毎日筋力トレーニングするしかないな。明日はスクワットにしよう」
朝食は昨日買ったミノタウロスの串焼きだ。ジューシーで美味しい。食べ終わったらすぐに宿を出る。
魔都の馬車発着場で、次の首なし馬車が来るのを待ち、乗り込む。目的地は国境付近にあるイナカ村だ。
当面の目標を『四天王を圧倒できるくらい強くなること』 とすることにした。
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