第3話

「アキコ」3


 危ないからブランコには乗ったことがない、コップにジュースを注いだ事はない、靴下も自分ではいたことはない、自分のことは何にもしたことはない、怒られたことも無い、大人達が何でもしてくれたからー。

 中学二年生の頃、母親をママと呼んでいたら同級生に馬鹿にされた。それがきっかけで今までの当たり前が当たり前じゃないことを知った。親は親の言いなりを拒絶反応し始めた俺にキツく当たるようになっていった。高校は親が決めた所を受験させようとしていが俺はぐれた友人と遊ぶようになっていた。親は相談所や家庭内暴力等を扱っているNPO等に相談していた。たまに職員が訪問してきて俺の顔色を伺っていた。


 お前のせいで人生設計が壊れた。

 あんなに良い子だったのに…。

 どうしてこんな子になってしまったのかー。


 親は子供への理想を押し付けた結果、イメージと違う人間になった俺を腫れ物のように扱い、俺を拒絶していた。


 父親の手に包丁が光っていた。

 母親はそれを止めようともせずに台所で固まっていた。

 その時だったー。

 あの女が現れて人差し指を父親に向けてニヤッと笑って、父親の頭に穴が空いた。そのまま母親に近づいて母親の頭も穴が空いた。

 女は俺を見てニヤッと笑って消えていった。

 リビングに倒れた父親の脱け殻…人形のように転がっている母親をしばらく見下ろしていた。


 高層ビルを魚眼レンズで見上げる。スノーボールの中から外を眺める。セブンスターの煙がふわりふわりと消えていくー。


 パチンッ!!


 何かが弾けて何かが戻ってきた。


 公園を月明かりが照らして私を…俺にスポットライトを照らした。

 俺は長い髪のカツラを脱いだ。

 俺がアキコでアキコは俺であった。

 両親の頭を撃ち抜いて刑務所に入っていた。出所してアキコが再び出て来たのである。女々しい自分を閉じ込めて狂気に満ちた女が現れた。女は特殊な能力を持って人を殺していた。

 女を殺して俺は前に進むと思っていた。

 違う!

 この女と共に歩んでいくんだ。

 俺の中の狂気は分裂を止めて俺に問いかけてくる。

 目の前にあるブルーシートに人差し指を向けた。照準が合うとニヤリとしてしまう。次の瞬間、ブルーシートの中で人間がのたうち回ったー。


 解放されたみたいである。


 階段に座るジジィが語る歴史等に意味はない。

 生きている意味が解らない人間が生きる意味はない。生きる意味を探すのが生きると言うことで、両親は俺が生きる意味であったが、その意味を失った。

 俺を真っ直ぐと見つめれば良かっただけなのに…。


 俺は死ぬまでアキコと無意味な人間を殺し続けるであろう。


 生きる意味を失った人間を殺し続けるであろう。


 水道から垂れる水滴の数を数えるように…。


おわり

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アキコ 門前払 勝無 @kaburemono

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