1章 少し狭くなった俺の部屋

 「なあ、これでちょっとは楽になったか?」

 俺は目の前に座っている美少女にきいた。

 彼女の澄んだ緑色の瞳には涙がたまってる。同様に色素の薄い整った鼻からも鼻水が垂れている。

 箱ごと持ってきたティッシュはひとつひとつ丸められて彼女の周りを囲んでいる。

「いえ...まっだぐよぐなりまじぇん……」

 そうは言っているものの、丸めたティッシュの製造効率は確かに落ちてきている。

 ひとまず彼女が落ち着いて、話せるようになるまで待つとしよう。

 それにしても目の前にいる子は俺の能力で呼び出した子なんだ。

 俺の能力ってこんなことにも使えるんだ、というか大丈夫かこの状況。

 親には何と説明したら...いやウチの両親にとって家はただちょっとした食べ物を食べて、風呂入って寝るだけの場所だもんな。

 両親がリビングにいる少しの時間だけこの少女を俺の部屋にいてもらえばばれないかな。

 でも未成年が事実上の同室での同居ってどうよ。

 やっぱり大人に言った方が...。

 しかしまあ、召還しちゃったものは仕方がない。

 今までは自然に帰っていったし、最悪大人たちが強制送還してくれた。

 俺自身が何かをしなくても完璧とは言わずとも元通りになった。

 今回は、違う。

 俺は座って、涙目になって鼻をかんでいる少女を見る。

 照れくさくてきちんと顔を見ることはできなかったが。

 そんな俺でも一人の、立派な人格を持つ人を呼んだんだ。

 こんなときこそ俺はしゃんとしないといけないんだ。

 いつも怠惰に生きてしょうもない空想に浸っていただろう。

 今からは一つの命を違う環境に飛ばしてしまった責任を持って彼女を守っていかないと。

 周りに任せるんじゃなくて、俺自身で解決するんだ。

 それはそうと、本当に召還が成功するなんてな。

 ここから俺の人生は飛躍的に輝かしい、幸せな時間へと変化していくんだろうな。

 そう思うだけで幸福感と安堵感が俺を満たす。

 少しの緊張感も入ってくる。


ぐぅ~。

 うん、おなかが空いたな。

 久々に気持ちの良い空腹感を感じられて嬉しいが、この音は俺からじゃないんだな。

 今度は空腹感に苛まされているだろう不運者と目が合う。

 もう喋りたくはないのだろう。

 痛くなるような視線で訴えている。

「わかった。簡単なものしか出せないけど、そもそも口に合うかわからないけど何か持ってくるよ」

 彼女の目から伝わる安堵と期待の感情。

 この表情は後になって、それも本人に言われて笑顔だと気付かされた。

 そのくらい彼女の顔はくしゃくしゃだった。

 事前に召還できるって知っていたら料理の練習くらいしていたんだけどなあ。

 時すでに遅し。

 でも料理を練習する時間ならまだあるはず。

 それも彼女と一緒に練習できるかも、なんてわくわくしながらキッチンがある静かな一回へ降りた。

 俺に朝ごはんを作ってくれる人なんていない。

 時たま、母さんが作り置きしてくれるくらいだ。

 卵、野菜、納豆やキムチなど最低限の食材が入っている冷蔵庫を見渡す。

 これだけそろっていたら最高だ。

 彼女の最初の朝食が俺の手料理なんて光栄なことだな。

 喜んでくれるかな俺の作った卵かけご飯。

 そういえば先程スマホで花粉症に効果的な食べ物を調べたら、キムチが入っていたし卵かけご飯と一緒に食べてもらおう。

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