第六話 美王子

王都に向かう途中にある村に立ち寄った勇者パーティと我は酒場で腹ごしらえをしていたがさすがは勇者パーティだ。村から歓迎され豪華な食事と寝どこまで用意してくれた。


「すいません。行きも帰りも厄介になってしまって」


店の中でシンフォニーは腰の曲がった老人である村長と会話をしていた。どうやら我が城を攻める際にはここを拠点にしていたようだ。忌々しい。


「良いんですよ。帰られるという事は魔王は倒したのでしょう?」

「はい! 確実に仕留めました!」


確実に殺されました。まぁ、女になって生き返りましたけどね!


「ありがとうございます! これで村が襲われることも無くなるのですね」

「その通りですよ。村長。これからはゆっくりとお過ごしください」


だろうとも。魔王軍が指揮していない魔物など烏合の衆よ。王国軍の見回りだけで対処できるさ! へっ!


「いたっ!?」

「どうかされましたか!?」


急に対角線上から足を蹴られた。対角線上に居るのはペトラ――リリアだ。ふむ、おかしいと思ったがどうやら念話がなんらかの理由で出来なくなっているようだ。仕方ない。


「すいません。急にお腹の調子が……お手洗いに行ってきます」

「大丈夫ですか!? 私が連れて行きましょう!」

「馬鹿言わないでください

「お姉ちゃん私が案内するね!」


待ってましたと言わんばかりに声を上げるペトラ――リリア。


「ペトラちゃん、偉いね。もしも治らないようなら私に言ってくださいね。快便の治癒をしますので」

「あ、ありがとうございます!」


頭を下げそそくさと女性用の個室便所に駆け込むとペトラの様子が変わる。詳しく言うなら雰囲気や魔力が変わったのだ。ペトラ――リリアは決して広くない個室の扉前に寄りかかり、我を見上げた。


「どうも。魔王様。どうです? 女性の身体は?」

「どうもこうも。胸が大きくて動きづらいし、股が気になる」

「変態ですね」

「そういうことじゃないわい! なんか違和感するんだよ!」

「まぁ、有る物が消えたわけですから。仕方ないかと」


まったくだ。なんだろうか。中心線が消えたような感じだ。足のバランスも少し取りづらいし、歩き方も気を付けなければいけない。


「それにしても女性の役が上手いですね」

「これでも魔界は美王子と呼ばれていたんだ。演劇でも女性の役を演じていたのだぞ」


魔界の劇場では私が喋るたびに男女問わず歓喜したものだ。しかし魔王なんて継がずに演者で居たいと何度も思ったが父上の頼みと魔王になったが、このざまだ。はぁ。


「なるほど」

「逆にリリア、お前も演技達者ではないか。あんな元気な娘を演じれるとはな」

「魔法少女ですから当たり前です。というか私は普段からあんな感じです」

「ははっ。冗談は顔の無表情を変えてから言うが良い」

「……」


無表情の感情の無い瞳が下から我の目を射抜く。むむっ。何を考えているかは分からないが。


「怒っているのか?」

「感情豊か過ぎてバレましたか」

「違う。我とリリアがした会話の前後を考えてそうなのではないかと考察しただけだ」

「ふむ。まぁ、それは置いておいて、どうです? 何か考えは浮かびましたか? まさかずっと仲良しごっこしているわけにも参らないでしょう」

「当たり前だ。考えはある。だがそれは王都に行かねば意味はない」


重要な駒であるシンフォニーの実兄が王都に居るのだからな。


「そういえば念話出来ぬのか?」

「はい。この体の持ち主はそこまで高等魔法は使えません。魔王様の魔力を見破ったのは流石ですがね」

「まだ成長途中というわけか」

「体の話ですか?」

「話の前後を考えろ!」


しかし不便だな。こういう隔離された場所があるなら話はできるがどこで聞き耳を立てられていたりしているか分からないからな。


「まぁ、私の魔力を分け与えれば使えるには使えますが……」

「ほう? なぜしない?」

「この体の穴と言う穴から流血が止まらなくなります」

「うん、やめておこう」


そんな状態になったら会話どころではない。シンフォニーたちが卒倒してしまうだろう。


「まぁ、そういうわけなので王都までは自力で解決してください。女の身体は便利ですよ」

「しないぞ。そんな事。大体、魔法少女は少女なんだからそういう冗談はやめろ」

「大丈夫ですよ。魔法少女はなったら最後まで魔法少女なんですから。魔法使いとは違います」

「はぁ?」


魔法使いの事を魔法少女と呼んでいるだけのはずで、魔法使いと魔法少女に違いなど無いだろう。からかわれてるだけか。


『いつまで入っている? みんなが心配しているぞ』


便所の扉越しから聞こえてきたのは聞き覚えのある声。


「おっと……この声はアキレスか」


まさか様子見で彼を寄こすとは思わなかった。彼は偵察員でもあるはず、まさか怪しまれているのだろうか。


「あのね~! ノーネお姉ちゃんと一緒にトイレしてるんだ~! アキレスもする~?」

『馬鹿者。トイレは一人でするものだ。すまないなノーネ。それが一緒ではゆっくり出来るはずも無かったな』

「い、いえ! 逆にお手を煩わせて申し訳ございません!」

『気にするな。俺が一番早く食事を終えただけだ。ペトラ、あまり騒ぐなよ。というかお前はさっさと出てこい』

「はーい! アキレスのケチ!」

『ケチという言葉を使う時ではない』


良かった。つまり怪しまれてはいないのだ。少し安堵した。ん……本当に尿意が来た。


「で、出てけ。もう話は良いだろ」

「えー! やだやだ! まだ絶対アキレス前居るもん!」


が、返事はない。本当に行ったのだ。


「ほら、もう行ってくれ!」

「仕方が分からないでしょう? させてあげますよ」

「え、やめ、あ、あぁああああ!! ぬ、脱がすなぁ!」


こうして我は初めての便所をリリアに手伝われるという恥を得て勇者パーティの元へと帰っていった。

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