第五話 我の名は

我が魔王だと知られずに済んで助かった。ナイスフォローをしてくれたリリアには勇者を倒した暁には世界の半分をやっても良いな。




「そういえば名前が無いと不便だよね」


「ああ、確かに。だが、こんな綺麗な女性の名前を考えるなんておこがましいのかもしれんな……」




シンフォニーの疑問にみんなが唸る。正直、名前などなんでもいいのだが、決めてくれるなら甘んじて受け入れようでは無いか。名づけの親になったはずの人物に陥れ、潰えるが良いさ。




「じゃあペロちゃん!」


「猫じゃ無いのよ。ペトラちゃん」


「えー。可愛いのに」




よく考えたらあの無表情、無感情であるリリアがこんな演技が出来るなんて知らなかった。普段からこれほど愛想が良ければ冗談も笑って済ませられるのにな。




「何かこれが良いとか有りますかね? 私も彼女らも親になるには早いので誰も名付け経験が無いもので、ははっ」


「い、いえ。私も子どもは居ないのでよく分からりません……」




子どもか。許嫁は居たが子作りさえしたことが無いからな。というかもう私には無縁だろうな。男と交わるのも断固拒否したい。




「うーん。じゃあノーネはどう?」


「おお、その心は?」


「名前無し、ノーネーム。ノーネ!」




ハッキリ言ってその由来はダサい。が、名前自体は良いのではないだろうか。呼ばれやすそうだ。




「随分安直だな。剣ばかり振るっておつむが弱くなったんじゃないか?」


「むっ! 脳筋みたいな見た目で頭良いシンさんがおかしいのよ!」


「私はそれで良いと思います!」


「ほんと!? 気に入ってくれて嬉しい!」


「お優しい。素晴らしい女性だ……」




我の右手を掴み、嬉しそうに首を縦に振るシンフォニー。くっ、顔だけは可愛いな。ほんと。




「そ、そういえば皆さんは王都へ向かっているんですよね?」




質問をして気を取られているシンフォニーが握っている右手をゆっくりと抜いていく。まったく、殺された相手に握られるとは冗談じゃない。




「ええ。魔王の死体を持ち帰れなかったのは残念だけど代わりにこの王冠があるから。王都を安心させに行くんです」


「王冠!?」


「こ、これです。どうかしましたか?」


「あ、ああ。な、なるほど。いえ、魔王の王冠なんてなかなか見れないですから興奮しちゃって……おほほ」




一体、何を盗んだかと思えば王座の間に置いてあった飾りの王冠か。そんな安物好きなだけくれてやるわ。それより宝物庫にある歴代魔王の王冠がバレていなくて良かった。




「そういえばまだ自己紹介がまだでしたね。私は勇者シンフォニー・アルドマイア。よろしく。なんでも相談してちょうだい! 私、相談に乗るの得意なのよ!」




ああ、よく知っているとも。いや、相談に乗るのが得意なのは初耳だが。我を殺した張本人め。


ふんっ貴様のその可愛い顔ごとズタズタに引き裂いてやる。ちなみにシンフォニーの右隣はシンだ。最早自己紹介は不要だ。というか喋らせたら面倒だ。




「ただ色恋話がしたいだけだろうに」


「うるさいジンさん」


「はいはい」


「で、右から順に……」




ちなみにシンフォニーの右隣はシンだ。最早自己紹介は不要だ。というか喋らせたら面倒だ。




「あ、シンさんは知って居ますので……」


「ですよね? あれだけ長い間森の中で蜜月を過ごしましたから」


「あはは……」




き、気持ち悪すぎる。




「困らせないでよジンさん!」


「じょ、冗談だよ!」


「もう……じゃあ次は」


「私はシャリー・ミーミン。王都では修道女をやっていて治療師を兼ねているの。何か病気やケガ、もしくは生活に困った事があれば相談してくださいね?」


「あ、ありがとうございます」




なんて物腰柔らかな女性なんだろうか。聖な者は苦手だが見る分には保養だな。着ている修道服にまで穢れが無い。リリアがペトラを洗脳した時の対処も速かった。聖女とはこの事を言うのだな。




「次は俺か。アキレス・ルーベルだ」




素っ気ない態度で返答するアキレスは目を伏せてしまう。が、シンフォニーはその態度にムッとしたのか、少し前のめりになり彼の肩を掴んだ。




「それだけ? アキレス君?」


「はぁ。暗殺者兼密偵だ」




一瞬目を開け、それだけ言うとまた目を閉じてしまった。会話が苦手なのだろうか。我も会話を別段好むわけではないがここまで寡黙なのはまるでゴーレムやアンデッドだな。まぁ、ヴァンパイア共に比べればマシだ。あれだけうるさい輩は見た事が無い。朝には石化するから朝まで我慢すれば良いだけだが苦痛だ。




「私はペトラ! こう見えても魔術師なの! みんなを強化したり援護したりするの! 凄いでしょ!」


「あ、う、うん。そうだね」




ペトラは知らないが現在入っている中身はよーく知っている。魔法少女リリア。昔からの我の部下でああ言えばこう言い、口と魔術が達者な魔法少女だ。ちなみに魔法少女とは、彼女に初めて会った日に名乗られたからそう呼んでいる。




「おいおい。ペトラ。あんまり大声出しちゃダメだぞ。お姉さんは記憶喪失で脳が混乱してるんだから」


「あ、ごめんなさい……ごめんね? お姉ちゃん?」


「い、いえ。大丈夫ですよ」




本当にこれはリリアなのだろうか。そう疑いたくなるくらい彼女に毒が無かった。

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