第四話 魔法少女のすることではない

「もうすぐ森を出ますよ」


「よく迷わずに一直線に行けましたね」




我も一度ここを訪れたが、リリアが飛行魔法でそそくさと帰ってしまったせいで徒歩で帰る羽目になった事がある。しかも我一人ならまだしもゴブリンが数人お供で来ていて彼らが勝手に迷うせいで世話しながら帰るのには骨が折れた。




「私、こう見ても記憶力は良くてですね。ここも昔、一度だけ修行で入った事があるんですよ。その時、地図は頭に入ってるんです」


「だから山小屋を見つけられたのですね」




ただの筋肉馬鹿では無いようだな。さすがは勇者パーティと言ったところか。智勇兼備の猛者たちがまだ後3人は正体不明のままか。まさか私の正体を看破する者は居ないだろうがな。




「はい。あなたのような美しい人に出会えて私は感動しました……是非、王都に帰った暁にはお茶でも行きましょう」


「は、はい……よ、喜んで」


「本当ですか!? ありがとうございます!」




本当は嫌だ。嫌すぎる。しかし王都に行くのか。ならばシンフォニーの実兄とやらに会えるのも時間の問題だな。その間、我は無害な記憶喪失の女で居れば良いのだから。




「おーい! みんなぁ!」




急に声を上げたシンにびっくりしたがどうやら森を抜けたようで草原に出ていた。草原には数人の若者がこちらに手を振っている。


もちろんその中には金髪碧眼の女勇者が居た。




「シンさん! 遅いですよ! どうでした……か?」




駆け寄ってきた勇者パーティの視線が一気にこちらを向いた。そういえば台詞を一切考えてなかった。どうする。なんて言えば……。




「この方は森の山小屋で一人、監禁されていたのか震えていてな。記憶喪失らしい。もしかしたら何らかの事件に巻き込まれていた可能性もある。保護してやらないか?」


「ええ。もちろんよ。記憶喪失な上に監禁されていたなんて気の毒だもの。それにしても綺麗な女性ね」




どうやら私の外見は人間界ではかなりの美女として認識されるらしい。魔界では美王子と呼ばれただけの事はあるな。人間になってもその美しさは健在だ。




「ふふん。私は既に彼女と茶の約束をしているのだ」


「どうせシンさんが無理矢理約束させたんでしょ。私から謝らせて? ごめんなさい。彼、美女に弱いの」


「おいおい! 勝手に決めつけるなよ!」




シンの言う通り程は無いが、確かに兄妹のようにも見えるな。外見は違うが仲の良さだけ見れば微笑ましいほどだ。




「み、みんな!」




突然、勇者パーティの一人であろう女の子が声を上げ、我を見て震えだした。黒いローブに三角帽子。まさかこの子は魔術師……! しかも我の魔力を見て正体を割ったのか!?




「どうしたのペトラ!? 震えてるわよ!?」


「そ、その人……」




まずい。どうすれば……この状況でどうすれば良いんだ!? ここでやるしかないのか? 一か八か、ここでこいつらを……!




「その人、まおおおおおおおおおおお!? うおがががががががっがが!?」




言い切ろうとした瞬間、ペトラという少女は奇怪な叫び声を上げ、草原の上でのたうち回り始めた。こ、怖い。まるで毒か脳内催眠を受けた直後の様な痙攣だ。




「ひぃ!? ペトラ!?」


「ま、まずくないか!? シャリー! 見てやれ!」


「シ、シンさんも手伝ってください! アキレスさんも! ペトラちゃんを押さえてください!」


「お、おう!」


「ああ……」




治癒師だろうか。シャリーという一番年上であろう人物の指示に従い、シンと顔半分を布で隠した男がペトラを押さえつける。




「状態異常回復魔法を使います!」




そう言い両手を緑の光で包んだシャリーはペトラの身体に触れようとした瞬間。




「わぁ!」


「きゃっ!?」




突然、ペトラが上半身を起こし、シャリーはしりもちを付いてしまった。突然の出来事に全員が固める中、ペトラはこちらを一瞬見て、すぐにシンフォニーを見た。




「だ、大丈夫です! 少し具合が悪かっただけです!」


「ほ、ほんと? ペトラ、無理しないで良いのよ?」


「はい! でももう全然大丈夫!」


「な、なんだよ! 心配させやがって……」


「本当よ! でもペトラちゃんが無事で良かった!」




その言葉に全員、安堵したのか。笑顔が浮かび始めた。しかし我は笑えない。一瞬我を見たあの目。確実にリリアだ。リリアの目だ。


まさかリリアの奴、この娘に乗り移ったのか。




「それで? ペトラ。さっきこの人を見てなんて言おうとしたの?」


「すごい、美しい人だなって!」




確定だ。ペトラという少女は魔法少女リリアに精神操作されている! とてもナイスなフォローだ。さすがは我の懐刀よ。




「え? なんか俺にはまおなんとかって聞こえたが」


「ま、お美しい! と言おうとしたんですよ!」


「なるほどな……変な言葉遣いだな!」


「興奮しすぎたのよね? 私も彼女が美しすぎて絶句しちゃったもの!




どうやら丸く収まったらしい。背筋に伝う汗を今更感じ安堵の息を吐いた。

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