第二話 我が女魔王だ

勇者に負け、目が覚めると女体化していた。話を聞けば、勇者に負けた我を命からがら逃げ伸びたリリアが蘇生魔法で蘇らせようとしたが、つい女体化魔法を掛けてしまったらしい。そんなことあるか?

リリアから貰ったローブを羽織り、木の床に腰を下ろしリリアと向かい合う。この女、確実に遊んだな。


「お前、絶対面白おかしく我の身体弄っただろ」

「いえ、蘇えらなかったら抱き枕とか乳枕にしようなんて誰も思ってませんでしたよ」

「嘘付け! どこの世界に思ってもいないのに乳枕なんて言葉を発せる奴が居るんだよ!?」

「私……ですかね」

「うるさっ!」


違う。こんな問答をしている場合では無いのだ。まずここはどこだ。小屋の中だが……外は木々ばかりだ。


「ここはどこなのだ。リリア」

「……」

「リリア?」


急に黙り込むリリア。まさか魔法少女的感覚で勇者たちがこの近くに来ているのでは無いか? くっ、こんな場所まで追ってくるとは今度はただじゃおかないぞ。


「リリア、勇者たちが近くに」

「いえ、うるさいと言われたので黙ってます」

「0か100しか無いのかお前は!?」

「うるさいですね……ここは輪重の森ですよ。木々が迷路のような壁になって入る物を迷わせている場所です」


なるほど、ここなら勇者シンフォニーが追撃するのも難し……って今、うるさいって言った? 魔王に?


「どうします? 魔王様、私と二人で娼婦にでもなりますか?」

「ならんが!? なんでそんな一か八かみたいな人生しか無いんだよ!」

「ですが戸籍もありませんし、何より勇者に追われています。まさか魔王が女体化して娼婦になってるなんて誰も思わないかと」

「お、確かに! じゃあなるか! ってなるか! 勇者を倒そうではないか! 今度はこちらから奇襲するのだ!」


 力強く立ち上がり、そう提案したがリリアは馬鹿を見る目を向け、首を横に振ってしまう。


「二人では無理です。せめて魔王様が集めた数万の魔王軍が居れば話は別ですが」

「そういえば魔王城は空っぽだったとシンフォニーが言っていたな。なぜか分かるか?」


 きっと何か事情があるはずだ。シンフォニーは知らなさそうだったな。まさか他の勢力の介入か? 勇者に手を貸している第三勢力が……!


「里帰りシーズンだったからですよ」

「え?」

「みんな、帰郷してますよ。ゴブリンもバンパイアもアンデッドも」


え!? じゃあみんな里帰りで魔王城から出て行ってたの!? 聞いてないんだけど!?


「てゆうかアンデッドの帰郷って何!? ゴーレムの帰郷ってなんだ!?」

「アンデッドは墓に。ゴーレムはマースター島へ行きました」

「墓は分かる! けどマースター島ってあの顔だけの巨像が並んでる島!? なんで?!」

「さぁ……」


土下座までしたのにあいつら一斉に休暇取るとか有りか!? 大体、誰があの城の警備管理してたんだ? うち、四天王とか作る余裕無いくらい人材カツカツだからなぁ。数万の魔王軍も別に直属ってわけじゃないし……。


「ち、ちなみに人材管理は誰が?」

「私ですね」

「お、お、お前のせいじゃん! なんでフル人員に休暇出した!?」

「休暇申請来すぎてて面倒になってしまって……ていうか私の仕事じゃないですよね。親切心で代行してただけなんで、あの……出るとこ出ましょうか?」

「出なくて良いよ! どうせうちの魔王城終わってんだから!」

「あ、そうでしたね」


つ、疲れる。なんて疲れる女なんだ。だが、もうリリアしか頼れる部下は居ない。これからどうしたものか……。


「おい。誰か居るのか!」


に、人間の言葉……男の声だから勇者では無いがまさか勇者の仲間か? ここで仲間に報告されては袋のネズミだ。

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