女勇者に負けた魔王は魔法少女に女魔王にされしまう!? ~勇者に惚れた我は勇者を追い出した王国の代わりに新たな国を建国し世界征服を目指す事にしたぞ~

四悪

第一話 配下が謎の失踪を遂げて敗北しました

魔王城。王国と隣国の国境付近を制圧し作り上げた堅牢な城である。ただ現在、この城は人間たちがこの城に突入しててんやわんやの事態になってしまっているらしい。けれど所詮は人間だ。我が用意した数万の魔王軍に勝てるはずがない。用意するのにどれだけ時間が掛かったと思ってる。どんだけ異種族に土下座したことか。


「魔王様、魔王様」


お抱え魔法少女であるリリアが玉座に座る我を見上げるが、大きな目に青い髪の少女は常に無表情である。顔色だけでは何が言いたいか分からない。


「リリア、名前を呼ぶだけでは我は何一つ分からんぞ」

「むっ。デリカシーが皆無。やり直し……魔王様、魔王様……チラッ」

「やり直されても分からんが!?」


普段からこんなやり取りをしているので慣れたものだ。


「あっそ。あ、今来てるの勇者パーティーだってさ」

「なるほどな……え? それいつものやり取り挟んでる余裕無かったよね?」


非難の目をリリアに向けた瞬間、突然の爆風が起こる。玉座の間の門が破壊されたのだ。粉塵の向こうから現れたのは金髪碧眼美少女勇者とその仲間五人だった。


「さぁ! 魔王! 観念しなさい!」

「なななあ!? 魔王軍は!? 数万の魔王軍は!?」


ゴブリン、スライム、ウルフ、アンデッド、バンパイア、ゴーレム。様々な種族がこの城を守って居たはずだ。土下座しまくったのに! もう倒されちゃったの!?


「そんなの知らないわよ! この城がら空きだったわよ! ろくな仕掛けも無いし!」

「仕掛けを作ったら魔王様ご自身が引っかかるので……」

「余計な事を言わなくて良い! 大体、玉座を出た瞬間、落とし穴があるとか不便すぎるだろ! しかも落とし穴の底は聖なる槍で敷き詰められてたし! あれ我用だよね!?」

「……」

「無視するなぁ!」


はっ! しまった。勇者たちは……か、完全にゴミを見る目じゃないか。

こ、ここは気を取り直そう。我はマントを翻し立ち上がる。一応、この時用の台詞は考えている。我は準備が良いからな。


「さぁ、勇者よ! 我が相手だ! この102代魔王アクモデウスが相手――」

「死ねええええええええええ!!」

「いや、早すぎぁうあぁう!?」


剣を構えて突っ込んで来た名も知らぬ勇者の攻撃をもろに受けてしまった。まさか台詞途中で斬り殺しに来るとは予想外過ぎた。


「ぐああああ!?」


は、腹からもう助からないレベルの血が……! だ、だがこんな時のために魔法少女を用意しているんじゃないか!


「リリアよ、我を助け……」

「やられたー。命だけはー」


す、すでに勇者の仲間に取り押さえられているじゃないか! なんだその棒読みは!


「うう……ゆ、勇者よ。せめて名前だけでも……」

「わ、私? 私は勇者シンフォニーよ。それにしてもあなた本当に魔王? 弱すぎじゃない?」

「は、はぁ!? お前が奇襲なんて卑怯な手さえ使わなければぁ!」


な、なんて言い草だ! せめてこの女、ぶん殴って――。


「きゃあ!」

「ぐあはは!?」

「あ、急に立ち上がるからビックリして切り伏せちゃった……」


一矢報いることさえ出来ず、我は玉座に倒れた。無くなっていく意識。だが、我を倒してもまた魔王は生まれるだろう。そう、この台詞もやられて余裕があったら言おうと思ってた台詞だ。

まさか遺言が負け犬の遠吠えレベルの台詞になるとは……とほほ。


「とほほじゃありません」


そうか。リリアも殺されてしまったのか。可哀想に。すまぬ、我が不甲斐ないばかりに。


「本当です。ですが、まだ魔王様は再起できますよ」


む、無理だろ。もう我は死んでいるんだぞ。


「死んでません。それより脳に直接語り掛けるの止めてください。気持ち悪いです」

「え」


目を開けると相変わらず無表情で突っ立て居るピンクのフリフリを着た魔法少女リリアが目と鼻の先に居る。ま、まさかし、死んで無い? 体は無事なのか? ある! 足も! 手も! 胸も!

胸も?


「な、なんだこの脂肪の塊は!?」

「胸ですね。おっぱいです」

「お、おっぱい!? なんで我がこんな物を!?」

「はぁ。どうぞ、鏡です」


なぜかため息を吐かれ、小さい姿見を渡された。いや、そんな事より、我は今、どうなって、な?!


「銀の長い髪、程よく大きい胸。そして柔らかい身体の曲線……何より声が高い!?」

「いえ、魔王様は男性の頃からとてつもなく弱弱しく高い声でしたよ」

「そ、そんなはずがないだろ!」


もっと厳かな声だったはずだ。うん。

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