第229話 のんびりデート6

229話 のんびりデート6



 言うまでもないかもしれないが。サキは大の虫嫌いである。


 嫌い度で言えばそうだな。触れるのはてんとう虫までと言ってたから、それくらいのレベルだ。無論、ダンゴムシなんて触れるはずもない。


 そしてそんなサキの眼前に映し出されたのは、そのダンゴムシよりも何百倍も大きいダイオオグソクムシ。予想はしていたが中々の反応だ。


「怯えすぎだって。別に水槽から出てくるってわけでもないんだし」


「そ、そんなこと言っても……怖いものは怖い、もん」


 まあ、気持ちは分かるけどな。


 俺とてこの見た目はゾッとする。ダンゴムシなら触れるんだが、流石にこのでかさになるとな。


 特にほら。裏側のびっしりと生えている脚がとにかくヤバい。なんでもあれをプレス機で潰してせんべいにし販売している所もあると聞くが、正直正気の沙汰とは思えないな。


 しかしこれだけ怖い生き物でも、せっかくここまで来たのだからやはり一度は見ておきたかったのだ。こういうのも水族館の醍醐味だろうしな。


「も、もう次の水槽行こうよぉ」


「まあまあ。そう焦んなって」


 改めて見ると本当、とんでもない気持ち悪さだ。


 どうしてこれが人気のだろうか。あれか? 俗に言うキモカワ的な……いや、これはシンプルにキモいだけだな。カワの要素を付けるにはゲテモノすぎる。


 世の中、何が流行るのか分からないものだなと思いつつ。流石に意地悪が過ぎたと反省し、水槽の前を通り過ぎた。


「ふぅ。怖かったぁ……」


「怖がるサキはめちゃくちゃ可愛かった」


「……やっぱり、いじわる」


 あ、そうだ。せっかくだし水族館のお土産にグソクムシのグッズも混ぜてみようか。


 お土産を渡す相手のリストは、アカネさん、ミーさん、夕凪さん、優子さんの四人。


 渡すなら誰だろうか。……って、考えるまでもなく一択だな。


 こんなの、絶対アカネさんだろ。他の三人には色々とお世話になり過ぎてるし。いや、まあアカネさんにもとてつもなくお世話になってるんだけども。その分色々と仕掛けられたりもしたからな。たまには仕返しの意味も兼ねてこういうのを渡すのもいいかもしれない。


「ふっふっふ。なあサキ。一応確認なんだけど、アカネさんって虫とか得意か?」


「え? うーん、どうだろ。あ、そういえば前、今のタワマンに住んでる理由が虫がいないからだって言ってたような気がするけど……って和人、まさか!?」


「なら好都合だな。あの人にはダイオオグソクムシ関連のお土産にしよう」


「い、いじわるが過ぎない?」


「大丈夫大丈夫。それにほら、いっそのことアヤカからアカネさんにってドッキリ動画撮るのも面白そうだろ。見たくないか? あのアカネさんがびっくりしてるところ」


「う゛っ。み、見たい……かも」


「よし。決まりだな」


 よかった。あのアカネさんだ。もしかしたら虫くらい平気で素手で触りかねないんじゃないかと思っていたが。


 これは……お土産選びの時の楽しみが増えたな。


「っと。言ってる間にお昼か。そろそろレストランに向かわないとな」


「? レストラン?」


「おう。この水族館に内蔵されてるやつな。そっちも予約してある」


「ほんとに!?」


 もちろん本当だ。


 予約時間は昼の十二時から。今が十一時四十五分だから、あと十五分だ。


 そしてちょうど、レストランは今いるコーナーを抜けた先。我ながら完璧な時間配分だな。


「えへへ……レストランっ♪」


「グソクムシの料理あるかな」


「へっ!?」


「うそうそ。冗談だって」


「……ぶぅ」


 さて、先に進もうか。


 ちなみにここ、グソクムシ同様深海魚とか、結構見た目エグい系の水槽が続くんだが。




 まあ……うん。きっと大丈夫だよな。

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