第216話 アヤカのクレーンゲーム配信2

216話 アヤカのクレーンゲーム配信2



『……ぽえぇ?』


 無慈悲なゲームスタートの音声が響く。


 配信開始から十五分。アヤカはすでに何の成果も得られないまま、缶バッジ一つに二十回もプレイを重ねていた。


 初めは景品だけでなくゲーム内音声までアヤカとコラボしていることへの興奮からか口数が多かったものの、今ではもう見る影も無い。


 あえて言おう。ドが付くほどのヘタクソである。


:うん、知ってた( ・∇・)


:え〜と……はい。¥500


:さっきからアーム以外画面何も動いてないぞ……


 橋渡し。アヤカが選んだその設定は、二本の滑り止めが付いた突っ張り棒の間に箱が置いてあり、それをその隙間に落とすというものである。


 たこ焼きキャッチャーなどのように運が絡むことはほとんど無く、完全にプレイヤーの実力次第。普通アヤカのような初心者はそんな設定に挑むことはないのだろうが……


 このポンコツ配信者、そもそもこの設定が難しいということすら知らなかった。


『おっかしいなぁ……アヤカもしかして幻覚見せられてる? 実はもう景品獲得できてるんだけど、何者かの策略によって認識阻害されてる的な……』


:現実逃避はやめろ


:落ち着いて聞いてください。現実です。


:もはやこうなるのを見に来たまである


:←それな


『だってこれ、もし本当に現実なら放送事故だよ? ほら、たしかクレーンゲームって取れない設定にしてたら警察呼ばれるんでしょ? そんな事件あったよね。え? コラボ先を通報……?』


:いや、アンタが下手なだけや^^


:さっきお布施くらいの気持ちでやってみたけど、普通に五回くらいで取れたぞ


ノーリーオンライン公式:通報はやめてください……¥10000


:公式来てて草


:本当に見てて草


:迷惑かけてて草


『んなぁぁぁっ!! こうなったらもうアヤカも意地だよ! 絶対この台で取ってやるから!!』


 ああ、ダメだ。コイツ腕だけじゃなく考え方まで完全にクレーンゲームをするのに向いてない。


 こういうのは諦め時が肝心だというのに。ヤケになるのは一番ヤバい。こうなったらもうあとは沼だ。


『こんのッッーーーー!!』


 みるみるうちに消えていくポイント。一瞬だけ元気を取り戻したものの、簡単に意気消沈して薄れていく声。


 そこから先は、一瞬の出来事だった。


 アームを下ろしては箱に激突し、変な所を狙ったせいで動かず。そもそも箱にも触れることができない時さえもあった。


 そうして再び十分ほどが経過すると。プレイ回数は合計三十回を超え、あまりに変わり映えのしない映像にリスナーからは


:もういいから諦めろ! このままじゃお前……死ぬぞ!!


:もうやめて! アヤカのライフはゼロよ!


:シテ……コロ……シテ……


:これ、一時間の枠で足りるのか……?


 アヤ虐を通り越し、ついには心配なコメントが溢れ始めたのだった。


 なんとも情けない。しかも本人はプレイに集中しているせいでそれに気づいてすらいない始末。これでは本当に別の意味で放送事故だ。


『へへっ、へへへへっ。まだまだ負けないぞぉ……もう一時間で一個取れればいいもん。これだけはなんとして……も?』


 が、ここで。ようやく画面に一つの大きな動きが現れる。


『アシ……スト……?』


 それは、一般のプレイヤーにとっては救いの手。しかし意地になっているアヤカにとっては、運営からの強制敗北宣言。


『あっ!? ま、待って! アヤカが自力で取るのっ!! 勝手に触らないでよぉ!!』




ーーーーアヤカの醜態を見るに見かねたノーリーオンライン従業員からの、手作業によるアシストプレイであった。

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