第214話 命名会議

214話 命名会議



「ヒック。と、いうわけでぇ。なっちゃんの新規加入も確定して、これからは五人で頑張っていこ〜、ってなったわけだけどさ。まだ肝心なところが決まってないよね〜」


「肝心なところ……ですか?」


「そ。思い当たる節な〜い?」


 空になった一升瓶をぷらぷらさせながら、アカネさんはにんまりとした顔で俺に尋ねる。


 肝心、ねぇ。とりあえず今日の目的である夕凪さんとの顔合わせは達成した。改めて本人の口からグループ加入の言質も取れたことだし、もうこのご飯会の役割は終わったようにものだと思うが。


「んもぉ。まだ決まってないでしょ? グループ名ッ!」


「え? あ〜、確かに。言われてみればですね」


「グループ名ってもうアカネさんが決めてあったりしないんですか?」


「まっさかぁ! これから私たちが名乗り続ける重要な名前だよ? みんなで決めるに決まってるでしょう!!」


 その重要な決め事をするにあたって若干二名、酔っ払ってる人がいるんですが。それはいいんですかね……。


 なんて、心の中でそんなツッコミを入れるが、声には出さない。


 それにしてもグループ名か。たしかに盲点だった。なにせここまで唐突に話が来てからトントン拍子で話が進んでいったからな。俺だけではなくサキも、完全にそのことは頭から抜け落ちていたようだ。


「グループ名、か。まあ確かにかなり大事なことだよなぁ。どうする? ベタに全員の文字一文字ずつ、とかしてみるか?」


「お、いいねぇ! なんか大学のサークルみたい!」


 頭文字となると、アカネさんは「AA」、ミーさんは「M」、夕凪さんは「Y」でアヤカは「HY」、か。


 全員から一文字取ってかつ被らないようにするなら、「A」、「M」、「Y」、「H」が残る。並び替えて英単語風に発音を作るなら「HYAM」って書いてヒャム、とかか? うーん、なんかなぁ……。


「はいは〜い! それでいくなら私は一番前がいい! Aは絶対一文字目ね!!」


「あの、あなた唯一の母音なんですが……。それすると他の三つをどう並べても発音訳わからなくなりますよ?」


「むぅ。ならボツかぁ……」


 そこは「じゃあ私は二文字目以降でいいよ」じゃないんだな。まあなんともアカネさんらしいっちゃらしいけども。


「でもやっぱり、私たちにゆかりのある名前にしたいよねぇ。適当にかっこいい言葉とか並べるんじゃなく、さっきの一文字ずつ、みたいな! ね、ミーちゃんはどう思う?」


「……ヒクッ」


「ああ、ダメだ。ミーちゃん今にも寝そうだぞ」


「うそん!? ちょ、ミーちゃん! 起きてよぉ!!」


「んぅ……うるさい、れす。ぶちのめしますよぉ……」


「あぇ!? あ、おぅ……」


 それからすぐ。ミーさんは静かな寝息を立てて夢の世界へと旅立った。


 きっと俺たちじゃ想像もつかないくらいの疲れが溜まっていたんだろうな。じゃないとあの人の口からぶちのめすなんて言葉が出るはずがない。


「今日はそろそろお開きにしましょうか。グループ名は各々の宿題、ってことで」


「むぅ……分かったよ。けど宣伝PVの編集とかで名前使うから、早めにね。三日後に発表!」


「「「はーい」」」


 アヤカのこれから所属するグループ名、か。



 俺も、できる限り凄いのを考えておかないとな。

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