第206話 朝チュン疑惑発生中
206話 朝チュン疑惑発生中
「優子〜? 優子さ〜ん?」
「ふむぉ……あぃ?」
「あ、やっと起きた」
頬をペチペチしながら呼びかけ続けること数分。ようやく優子が薄ら目を開ける。
なんか、優子でも寝起きはここまで無防備なんだと笑ってしまいそうになった。髪は跳ねてるし、表情もどこかだらしない。
「……もしかして私、彼氏持ちの親友と朝チュンした?」
「寝起き一発目で何言ってんの」
「いや、いやいやいや! 知らない天井とベッドなんですけど!? 飲み会の途中からあんまり記憶無いし……え、確定じゃない!?」
「サキ〜、優子さん起きたか〜?」
「ん。やっと起きたよっ」
「ntr!? いや、3ぴ────」
「うん、優子は一旦黙ろっか」
あらぬ誤解をして目をグルグル回す親友の口に水入りペットボトルを押し込み、無理やり流し込んでいく。
本当、なんてとんでもない誤解をする子なのか。いくら優子が相手だったとしても和人とそんなことをさせるはずがない。私と優子が、なんてのは言うまでもなく。きっと二日酔いと寝起きで頭がこんがらがっていたのだろう。なぁに、水をがぶ飲みすればすぐにいつもの優子にもどるはず。
「がぼ、ごぼぼぼ!?」
「……サキさん? 優子さん溺れかけてません?」
◇◆◇◆
「えっ……と。本当、すみませんでしたっ!!」
ででどんっ。酔いが覚めて部屋から飛び出た優子さんが俺に向かってしてきた第一の行動は、とても美しいフォームの土下座だった。
「あ、頭上げてくださいよ。マジで気にしなくていいですから」
「い、いやそういうわけには……。せめてレンタカー代は払わせて! サキが潰れたのも実質私のせいみたいなもんだし!!」
「いいです! いいですって! なんで諭吉差し出すんですか!!」
たったの一時間借りただけのレンタカー代でそんなにするはずがない。あまりちゃんと料金表は確認してないけど、丸一日借りた時でも五千円あれば足りたのだ。多分最低金額が高めに設定されていたとしても三千円あれば充分だろう。
「というか、呑みのお金は!? 私お会計した覚え無いんだけど!」
「あっ……そういえば私も無い。和人さん?」
「……」
「や、やっぱりこの諭吉貰って!! なんならもう一枚必要じゃない!? 迷惑料だと思ってくれていいから!!」
「いやそんなに料金いってませんって! ほんと、呑み代合わせても諭吉でお釣り返って来ますから!!」
ちなみにサキと優子さん二人分のお会計の合計は六千円ほどだった。二人ともめちゃくちゃ食べて飲んでしてたみたいだけど、店自体も安い所だし、なにより食べ呑み放題のプランにしててくれたからよかった。あと、食べ残ししてたら料金の傘増しが凄いことになってたと思うけど、一応料理は全部食べ切ってくれてたし。
サキの分の料金を引けば、本当に諭吉でも貰いすぎなくらいなのだ。俺が支払ったと言っても結局サキとは貯金を統合してるから実質二人のお金だし。マジで気にしなくていいんだけどな……。
「これはほんとに受け取ってもらわないとダメだって! 酔い潰れてお会計してないうえに車で送ってもらって、しかも泊めてもらったんだよ!? せめて諭吉! この諭吉だけは受け取って!!」
「いや、いやいや……やっぱりサキの友達からお金を貰うってのは……」
「親友の彼氏に奢られて世話焼かれてそのままってわけにはいかないの! ね、お願い! 私のために受け取ってぇ!!」
結局、この押し問答は幾重にも渡って行われて。なんやかんやで俺が折れる形となり、諭吉さんを受け取った。
結構悩んだのだが、俺にここまでされて何もなしでは優子さんの立場が無い、と。せめてレンタカー代の三分の一と自分の呑み代だけの支払いにしてもらおうと思ったが、迷惑料がゼロでいいわけがないと聞く耳を持ってもらえなかった。
ほんと、律儀な人だ。
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