第205話 一緒に寝たい

205話 一緒に寝たい



 私たちの家が見えて、一度通り過ぎて。徒歩五分圏内のレンタカー屋さんに車を返してから、歩いて部屋を目指す。


 優子はまだ起きる気配が無かった。無理やり引っ叩けば起きるかもしれないけど、ここまで気持ちよさそうに熟睡されるとその気も起きない。


「俺がおぶっていくか。優子さんなら多分俺の力でもいけるだろ」


「ほんとにごめんね? し、しんどくなったら私がすぐに代わるから!」


「大丈夫大丈夫。ここは任せとけって」


 後部座席の扉を開け、レンタカー屋さんの店員さんに少し心配そうな目線を向けられながら和人がシートベルトを外し、そっと優子に背中を向けて身体を持ち上げる。


「う〜〜ん……」


 優子が華奢なこともあり、ひょいっ、とあっという間に身体は持ち上がった。


 お金の支払いは登録してあるクレジットカードからの翌月引き落としなので、車のキーを返せばあとは手続きは必要ない。後ろから見守ってくれていた店員さんに会釈をして、その場を後にする。


「サキごめん、鍵開けてもらっていいか? 両手塞がってるから」


「分かった。ちょっと待ってね」


 思いの外私の方の酔いはすぐに覚めてくれたからよかった。もしあのまま私も優子も倒れたままだと和人の負担が凄いことになっていただろう。


(正直、和人の背中で寝てる優子はちょっと羨ましいけど……)


 その気持ちを口に出すと面倒なのは分かっているのでグッと堪え、部屋の鍵を開ける。


 優子はどの部屋に寝かせるべきか。リビングのソファーか、はたまた私の部屋のベッドか……。


「優子さんは俺の部屋のベッドに寝かせようか? 俺別にソファーでもいいし」


「そ、それは流石にダメ! ならせめて私がソファーで寝るよ!」


「そういうわけにもいかないだろ。別に俺は大丈────」


「ダメなものはダメっ!!」


 いくらなんでもそこまでさせるわけにはいかない。ここだけは絶対に譲っちゃダメだ。


「……優子は、私の部屋のベッドに寝かせるから。い、いつもみたいに和人の部屋で、一緒に寝よ?」


「へっ!? い、いいのか? 優子さん起きてきたら……」


「私が、和人と一緒に寝たいの。……ダメ?」


「だ、ダメなわけないだろ。サキがいいなら、俺はむしろ大歓迎というか」


「えへへ……ありがと」


 こ、これはあくまで和人をソファーで寝させないための作戦だから。


 決して和人のかっこいい横顔に釣られてぎゅっ、てしたくなっちゃったから誘ったわけじゃない。きょ、今日は流石にえっちなことするわけにもいかないし? だからただ、一緒のお布団にくるまって寝ようって。そう提案しただけ……うん。


「じゃあとりあえず優子さん寝かせるわ。サキはシャワー浴びといて。俺は諸々終わったら次に入るから」


「も、諸々!? だ、だだだだめだよ!? 今日はえっちなことの準備しちゃだめだからね!?」


「バカ、違うっての! 優子さんベッドに入れて水とかも用意しとかなきゃだろ!? 散らかってる所も片付けておきたいし!!」


「っ……!?」


 紛らわしいことを言われたせいで思いっきり恥ずかしい勘違いをしてしまった私も、そして突然不意を突かれてそんなことを言われた和人も。二人して耳までまで真っ赤になると、やがてすぐにその空気に耐えられなくなった私は小走りで浴室へと向かう。


「……私のバカっ!」


 

 流石に考えがピンク色すぎた、と。自責の念に駆られながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る