第204話 覚めた酔いと冷めない熱
204話 覚めた酔いと冷めない熱
「……んぇ」
「おっ。起きたか?」
「かじゅ……と?」
「和人ですよ。ったく、何がなんやらでビビったんだからな」
頭がぽわぽわしている。状況がうまく飲み込めない。
えっと、たしか……私は優子と居酒屋で女子会をしていた。程よくお酒が入ったあの子から実は彼氏がいなかったことを告げられて、えと……あ、そうだ。優子の好きなやつと同じハイボールを頼んだんだ。
けどその後からの記憶が綺麗さっぱり抜け落ちている。ハイボールは多分、飲んだはず。飲み干したかは分からないけど。
「サキから急に電話かかってきたんだよ。呂律回ってなくて何言ってんのかさっぱりだったしなんか嫌な予感してさ。行く店の場所は聞いてたから行ってみたら……」
事の顛末を聞いていると、どうやらこういう事らしい。
まず私は一瞬で酔い潰れた。それも記憶を飛ばしてしまうほどに。けど、反応からなのか単に酔っていたからこそのふざけなのか。私は和人に電話をかけた。そして私の異常に気づいた和人は電車で一度店に来て、私と優子が二人して気を失っているのを見てレンタカーを借りてきたらしい。
それで今に至る。後部座席を除くと、律儀にシートベルトをされた優子が幸せそうな寝顔で窓にもたれかかっていた。
「ごめんなしゃい……。迷惑かけちゃったよね」
「ほんとにな。いつもは俺の前でもほとんど呑まないくせにハイボールなんて呑んでさ。どうしたんだよ?」
「そ、それはなんというか、勢い? というか。えっと、優子が今まで秘密にしてたことを打ち明けてくれてね。勇気付けるために勢いで同じの頼んで乾杯しちゃいました……」
我ながらなんて恥ずかしいことを言っているのか。和人からすればただバカみたいに呑んじゃって潰れちゃいましたってだけの話だ。怒られても文句は言えない。
「サキ」
「ひゃ、ひゃいっ」
ああ、やっぱり怒られる。
当然だよね。今日は用事で忙しかったはずの和人にいきなり電話をかけて、レンタカーまで借りさせて。
今日は迷惑かけないって決めてたのになぁ。結局いつも以上に────
「許す。酔っ払ってふらふらになった状態でも一番に俺を頼ってくれたからな」
「え……?」
「けど、これからはマジで気をつけてな。優子さんと呑みに行くのは別にいいし、俺が迎えに行くのも気にしないけどさ。呑みすぎで倒れるってなったらやっぱり心配だから」
ぽんっ。信号待ちで車が停車した瞬間、そう言うと和人は私の頭の上に手を置き、そっと撫でる。
「怒って、ないの?」
「怒ってないぞ。超心配はしたけどな」
「うっ」
「でも反省してるならよし。あ、そだ。優子さんの家分かるか? 一応今は俺らの家に向かってるんだけど、近いなら送ってく。遠いなら今日はうちに泊めて明日自分で帰ってもらう感じになるけど」
「あー、うん。優子の家は分かるけどこっちとは逆方向だよ。私達の家からは最寄駅の電車で一本だから明日の方がいいかも」
「そっか。じゃあこのまま帰るか」
「……うん」
飲んでいいからと渡されたペットボトルの水を流し込むと、少しずつ身体が軽くなって視界もすぅっと明るくなっていく。
確かに身体からアルコールが抜けていっているのだ。頭のほわほわした感じだってもうほとんど無いし、酔いは確実に覚めている。
だと、いうのに────
(身体、暑い……)
街の街頭とネオンに照らされた大好きな人の横顔がかっこよすぎて。この熱だけは、一向に冷めることはなかった。
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