第203話 女子会4

203話 女子会4



「……へ?」


 悲壮感漂う親友から発せられたのは、あまりにも衝撃的すぎる言葉。


 優子には彼氏がいたことがなかった。それもこれまで一度も。オシャレでコミュ力もあって顔だって整っているこの子に限って、と未だ信じられない気持ちの方が圧倒的に強いのだが、嘘をつくような状況でもない。きっと本当のことなのだろう。


 優子は自分のことを「いじっぱりな嘘つき」だと言った。つまりは私に対して見栄を張るうちに収拾がつかなくなり、たまに彼氏とはどうなのかと聞くと具体的なシチュエーション話まではしなくとも、今はいるとか最近別れたとか。そういった言い回しで私からの追求を躱し続けていたのだ。


「サキの前ではかっこよくいたかったの。こんな嘘、結局自分が苦しむだけなのに。バカだよね……」


「えっ……と。本当、なの? 今までに一度も?」


「うん、一度も。まあ正確には告白されたことだけならあるんだけどね。なんて言うのかな、私が告白される相手って変な人多くてさ。全部断ったから結局彼氏はできたことないの」


「そう、だったんだ」


 私の親友は強い女の子だった。いつも私の横で笑いかけてくれて、守ってくれて。私は和人に出会って恋をするまで、どこかずっと優子に頼りっきりになっていた自覚がある。


 きっとそれがこの嘘を呼んでしまったのだろう。優子はそんな事はないと言うかもしれないけれど、私が「かっこよくて頼りになる親友」というレッテルを押し付けるたび、どこかプレッシャーのようなものを与えてしまっていたに違いない。


「やっぱり……失望した? ごめんね。ずっと嘘ついて、騙してて」


 違う。優子が責任を感じる必要なんてこれっぽっちもない。


 悪いのは私だ。勝手にイメージを押し付けて、しんどい思いをさせてしまった。本当は誰よりも乙女で普通な女の子に虚像を作り上げる決心をさせてしまった。


 失望なんてするわけない。私が今伝えたいのはそんな、悲しい言葉ではないのだから。


「あぇ? さ、サキ? 何してるの……?」


 私からの何かしらの言葉を期待していたであろう優子を無視し、私は注文用タブレットを手に取って一つの商品を注文する。そして、その画面を見せつけた。


「こ、ここのハイボール結構強いよ!? サキ、お酒弱かったよね!?」


「今日はいいの。ね、優子。謝らなきゃいけないのは私の方だよ。ずっと苦しい思いさせてごめん。私には優子の理想の彼氏さんを連れてくる事はできないけど、せめて今日は出来る限り付き合わせてよ。一緒に呑も?」


「サキ……」


 私が優子と一緒にいるのは優子に彼氏がいたからじゃない。


 優子と一緒にいたかったからだ。一緒にいると楽しいからだ。そこだけは絶対に揺るがない。


 むしろ、彼氏がいたことが嘘だと聞いて少し可愛いとまで思ってしまった。優子にも苦手なことがあったんだって。勉強も人気もルックスも、何もかもが私より上だったあの優子が……。


「なによ、それぇ……。こっちは真剣に悩んでたのに! バカみたいじゃん!!」


「ふんっ。そんなことで失望なんてしてあげるわけないでしょ。何年一緒にいると思ってるの?」


「あーもうっ! 最高だな私の親友は!! よぉ〜し、こうなったらとこっとん呑んでやる。サキもついてきなさいよ!!」


「そうこなくっちゃ! ほら、食べ物もどんどん頼も!!」


 親友の秘密を知って、許して。これまで以上に仲良くなれた気がして。とにかく心の底から嬉しくなった。


 身体を包むのは高揚感と好奇心。こうなったら優子の恋愛話をとことん掘り下げてやろう。好きなタイプはもちろん、告白してきたと言う変な人の話まで。聞きたい事は山ほどあるのだから。


「「女子会最高〜っ!!!」」


 そしてすぐに店員さんが持ってきてくれたハイボールのジョッキで優子と乾杯。ゴクゴクと喉を鳴らして中身の半分を一気に飲んで見せた優子に触発され、私も飲むのは初めてだったが、目の前でキンッキンに冷えて炭酸の泡を溢れさせる魅惑のお酒相手に加減なんてできなくて。


「────ゴクンッ」




 私が覚えているのは、そこまで。

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