第194話 癒しの時間4

194話 癒しの時間4



 むぎゅっ、と柔らかいものが押し付けられると共に、ぽかぽかなその身体に密着したことで体温が上がっていく。


 元々体温の高い彼女だが、眠くなると分かりやすく更に身体が熱くなる。そのせいで抱き合いながら眠ると毎晩湯たんぽと一緒に寝てるみたいだ。


「ぎゅ〜っ。和人あったかぁい」


「いやいや、サキの方がだぞ。身体ぽっかぽかになってるし」


「ほんと? 彼氏さんに甘やかされてほわほわしちゃってるからかなぁ」


 ああ、これはダメだな。


 もう表情が溶けかかってる。とろんとした瞳はうつらうつらとして意識が飛びかかっているようにも見えるし、そろそろ限界か。


 今日一日本当にいろいろなことがあった。それこそサキの……いや、柊アヤカの将来にも関わるような重大な決断をした。


 個人勢という枠組みでVtuberを続けていくという根っこの部分は変わらなくとも、その個人勢の中でトップに位置するアカネさん、そのマネージャーとしてデビューし、まだほとんど日にちが経っていないにも関わらず既に次の配信を待ち望まれているほどの人気なミーさん。イラストレーターとVtuberを兼業しており、チャンネル登録者では個人勢の中で五本指には入る人気を兼ね備えている上、アヤカにとっては生みの親でもある夕凪さん。


 改めて見てもとんでもないメンツだ。アヤカだって個人勢の中ではかなり上位の存在ではあるが、それでもこの名だたるVtuber達とグループを組むとなれば相当な緊張もあったことだろう。


「ね……ぎゅっ、てしよ? もっと和人とひっつきたい……」


「ん。喜んで」


 俺の彼女は凄い人だ。何十万人ものファンを持ち、Vtuberという荒波の中で生きている。


 しかし俺はどうだろう。俺は所詮、ただの一般人だ。きっと側から見れば釣り合っていない存在。だからと言ってサキをもっとふさわしい人にとか、そういうことじゃない。この先の人生、俺はずっとサキのそばにいたい。そのためだったらどんな努力だってする。


 サキを……そしてアヤカを。支え続けるために。俺はこの先、どう在るべきなのだろう。


「かずとぉ」


「どした?」


「えへへ……ありがとぉ。和人が隣にいてくれて、本当によかった。和人がいてくれるから……私は、いっぱいいっぱいがんばろっ、て。そう思えるの……」


「〜〜っ!!」


「だから、ね? これからもずっとそばにいてね。大好きだよ、和人……」


「……」


 すぅ、すぅっ。サキは最後に呟くようそう言うと、やがて小さな寝息を立て始める。


「いつもいつも、ほんと幸せそうな顔で寝るな……」


 手を握る。小さくて細い、女の子の手だ。


「俺も、頑張らないとな」


 この一人の女の子を幸せにするために。ずっと隣にいて、支えて。人生を共にするために。サキだけがこうやって頑張って、俺はダラダラと生きていくわけにはいかない。


 きっとサキは「ただ隣にいてくれるだけでいい」と、そう言ってくれるのだろう。でも、それでは他でもない俺自身が納得できないのだ。




 俺がやりたいこと。すべきこと。それが今、見つかった気がした。

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