第192話 癒しの時間2

192話 癒しの時間2



 やっぱり一日の終わりに入るお風呂というのは格別だ。


 こうやって湯船に浸かっているだけで心は癒され、じんわりと身体の芯まで温もりが満たされていくと幸せが全身を巡る。


 それに、このお風呂はただの湯溜りじゃない。


「ひゃっ!? も、もぉ。抱きしめるなら言ってよぉ……」


「ごめん。サキのそういう反応見るのも楽しみの一つだからな」


「……いじわる」


 ここには最愛の人がいる。俺の胸の内で小さく縮こまりながら身を寄せてくれる彼女さんが。


 細い腰回りに手を回して抱きしめると、ピクりと小さく反応する。サキのお腹は一級品で、赤ちゃんのような白くもちもちな肌と、硬すぎず柔らかすぎずで引き締まっていながらも女の子なお腹周りはついずっと触っていたくなる。


「お、女の子のお腹をそうやって撫で回すのはどうなの?」


「? でもサキ、いつもお腹撫でると満更でもなさそうにしてるぞ」


「そ、そんなことないもん! あのね、和人。前にも言ったことあると思うけど、私お腹周り気にしてて……」


「大丈夫。サキのお腹周りは並の女子よりも細いし、なにより触り心地もいい。何度も触った俺が保証します」


「っ……んにゅぅ」


 むくれっ面で振り返って抗議してきていたサキが再び前を向く。


 どうやら撫でるのを続行していいということらしい。なら遠慮なくたくさん触らせてもらおうか。


「……むにむにしたら怒るからね」


「あ、はいっ」


 バレてた。ちょっとくらいお腹をぷにぷにむにむにしても良いかなと思ったけど、許されていたのはさわさわするなでなでだけらしい。まあそれならそれでいっぱい撫でさせていただくけども。


「サキってスキンケアとかどうしてるんだ? たまに何か塗ってるのは見た事あるけど、あんなのでここまですべすべもちもちになるもんなのか?」


「す、スキンケア? う〜ん……化粧水と乳液は塗ってる、かな。あとは保湿のクリーム? 近くの薬局で売ってる普通のやつだけど」


「なるほど。つまりほとんど天然物だったわけだ」


「それ、褒めてるの?」


「もちろん。最小限の手入れでここまでのポテンシャルを引き出せるってことは、元がいいって事だ。美人に化粧がいらないのと一緒だな」


「そ、そう? えへへ……」


 あ、照れた。


 それは確実に熱いお湯によるものではない耳の紅潮。サキが恥ずかしがる時の癖だ。相変わらずこれはいつまで経っても治らないらしい。おかげで俺からはサキが恥ずかしがったり照れたりした時の目印として丸分かりだ。


 勿論治して欲しいという話ではない。むしろずっとそのままでいてくれ。可愛いから。


「でも和人だって……何もしてないように見えるけど、男の子と思えないくらい肌綺麗だよ? ニキビとかも無いし」


「あ〜、俺か? まあ俺の場合は昔に出し切ったのかもな……。小学校高学年くらいの時ニキビ酷くてさ。おでことか頬とか見せるのかなり恥ずかしかったっけ」


「ふぅん……。その頃の和人にも会ってみたかったなぁ」


「や、やめてくれ。今でさえそれほど自信があるわけじゃないんだからさ」


「むぅ。和人ってたまにそうやって自分を過小評価した発言するよね」


 あ、あれ? なんかちょっと怒ってらっしゃる?


 俺の腕をさすさすしながら不満げにそう言うと、サキはぷくりと頬を膨らませる。


「……私の彼氏さんは世界一かっこいいのに」


「〜〜〜〜っ!?」




 こ、コイツ……いきなりなんて破壊力のある言葉を……。

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