第190話 疲れた一日の終わりに

190話 疲れた一日の終わりに



「うへぇ。疲れたぁ……」


「あ、コラ待てってサキ。そのままソファーで寝る気じゃないだろうな?」


「う〜にゅぅ」


 バタンッ、とソファーに倒れ込んだサキは変な声を上げながら顔を枕に埋めると動かなくなり、気絶するかのように黙り込む。


 まあ今日は本当に色々なことがあった。疲れ切ってこのまま寝てしまっても仕方がないけれど。寝るなら寝るでせめてベッドにしてもらわないとな。あと汗も掻いてるだろうし、サキのためにもお風呂くらいは済ませてもらいたい。風邪を引いてしまったら大変だ。


「そんな可愛い声出してもダメだぞ。ほら、服脱いで。シャワーだけでも浴びてこ〜い」


「う゛〜、やだぁ。このまま寝るのぉ。脱がせるんじゃなくて上から優しくお布団かけてよぉ……」


「それくらいは後でしてやるから。汗まみれの服で寝るなんてサキも嫌だろ?」


 全く、ワガママな奴め。気持ちが分かるだけにあまり強く言うことはしたくないから俺も優しく言ってるんだけどなぁ。


 言うことを聞かない悪い彼女さんにはお仕置きが必要、か。


「うれ、起きろ起きろぉ! オララララ!!」


「っひゃぁ!? うにゃ、ひゃはひぃっ!!」


 俺は背後から両脇に手を忍ばせ不意打ちのこちょこちょを喰らわせる。するとサキの身体が途端に飛び上がり、笑い声と共にソファーから転げ落ちた。


 サキがこちょこちょに弱いことは知っている。大体全身のどこをこしょばせても敏感に反応して(決してそう言う意味ない。決して)目元に涙を浮かべるし、多分俺が上手いとかではなくコイツの身体がよわよわ過ぎることが原因なのだろう。


「和人ひどいぃ。もぉ! 一日頑張った私を労る気持ちは無いの!?」


「いや、俺だって労わりたいけどさ。そうだな……じゃあちゃんとお風呂入ってくれたらその後いっぱい労るぞ」


「……何してくれるの?」


「へっ!? そ、それは……」


 考えてなかった。とりあえずで言ったんだが、まさかそんな聞き返しをしてくるとは。


 何をしてくれるの、か。お風呂に入って後は寝るだけになったサキに俺から労りでできることだろ……?


 ″そういうこと″は流石に、今日の体力じゃもう無理だろう。仮にサキができたとしても俺にその自信がない。実はと言うと俺の方も結構疲れが溜まってて限界だ。


 なら────


「べ、ベッドに行ってくれたら……そうだな。俺にできることなら何でもするぞ。添い寝でも抱き枕係でも、好きなようにしてくれ」


「ほんと!? えへへ、じゃあ頑張っちゃおうかな。約束、ちゃんと守ってね!!」


「……おぅ」


 コイツ、急に元気になりやがって。


 さっきまでの溶けそうになってた状態が嘘だったかのようだ。いやまあ、俺のことを好きにできるっていうのがやる気に繋がってくれるのは彼氏的には嬉しいからいいんだけどさ。


 てててっ、と歩いて行ったサキは浴室に着くと、給湯器を付けて何やらカチャカチャと音を立て始める。


 そして数十秒後。にへぇ、と甘い笑みを浮かべながら戻ってくると、言った。


「とりあえず、一緒にお風呂入ろ?」



 おっふ。

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