第176話 夕凪という女3

176話 夕凪という女3



「おっほん。え〜、それで? 確かあの赤羽アカネからの使いで来たんだっけ?」


「あ、はい。えっと……もしかして内容って聞かされてませんか?」


「ま〜ったく。ただ直接話をしたいからって言われて、アヤカが行きますって。だから速攻で住所教えちゃった」


「そ、それいいの!? 防犯意識!!」


 話を聞くと、どうやらアカネさんとママはそこまで知った仲ではないらしい。


 何やら一度絵師としてのコラボをしたことがあるらしいのだが、それっきりらしい。


 そんな浅い関係でも呼びかけに応じてくれたのは、私がいたから。ママは私のことを溺愛してくれているから、どうしても一度オフでも会ってみたかったと。ママ相手なら、言ってくれればオフコラボだって組むのになぁ。


「ま〜ま〜、でぇじょうぶだって。一応知った仲ではあるんだからさ。それで? わざわざオフで会ってまで話したいってことは結構な内容なの?」


「は、はい。実は……」


 私は、アカネさんの考案したグループ化の内容をそのままに話した。


 アヤカさんと私、マネージャーのミーさん。この三人でグループを結成すること。そこに新規メンバーとして夕凪ママにぜひ参入してほしいということ。そしてこれから、この輪は広がっていくであろうこと。


「グループ……か。私は正直、一人で適当にまったりやってたいだけなんだよね。絵師としての仕事もあるし、あまりVtuberとしては時間を割けない時もある」


 でも、と付け足して。ママは言葉を続けた。


「話自体はかなり魅力的……だな。要するにそのグループの理念としては、可愛い女の子をいっぱい集めて楽しくやろうってこと。で、合ってる?」


「は、はい。かなり大雑把に言うとそんな感じです……」


「なら、私の答えは決まりだな」


 ニヤリ、とママの口角が上がった。


「私もグループに入れてくれ。アヤカみたいな可愛い子とたくさん交流を持てるなら、私としては大歓迎だ!」


 ママには、一つの志がある。


 それは「可愛いは正義」ということ。絵師として、Vtuberとして。彼女は可愛いを生み出し、可愛いと触れることを求めて活動をしていた。


 私も、そのうちの一人。柊アヤカという最高に可愛いVtuberは、彼女の掲げるそんな目標のうちの一つから成り立ち、完成したものだ。


 そんなママの気持ちは、アヤカさんのグループ理念に強く合致していた。多分あの人も、こうなる事を見抜いての推薦だったんだろう。


「私は可愛いこそが強さであり、可愛いものこそが最強だと思ってる。アヤカ、お前もその最強のうちの一人だ。そんなお前と今まで以上に深い接点を持てるって聞いたら、断るわけにはいかないぜっ」


「や、やった! ありがとママ!!」


「へへっ、いいって事よ。いつも言ってるだろ? 私は可愛いに対して正直に生きてるんだ。くっふふふ、赤羽のやつとミーちゃんとやら。そいつらの持つ可愛さも楽しみだぜ」


「アカネさんとミーさん、めちゃくちゃ美人だよ! グループのミーティングとかで絶対会えると思うから!!」


「おー、そりゃ楽しみだな。さて、じゃあまあここで仕事の話は終わりってことで。せっかく可愛い可愛い娘が来てくれたんだ。オフでしか楽しめない事をしないと……な?」


「へっ……?」


 ぞわわっ、と鳥肌が立つ。


 多分私の本能が、瞬時に身の危険を察知してしまったのだ。ただでさえさっき猛烈なセクハラを受けたばかりだから……。


「私と────」


「ひっ!?」


「オフコラボ配信、するぞ!!」




「…………へぇっ?」

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