第175話 夕凪という女2

175話 夕凪という女2



 ガチャッ、と音を立てて、扉が開く。


 私は緊張しすぎて、既にカチコチだった。そういえばアカネさんの時も、最初はこれくらい緊張してたっけ。


「は、ははは初めまして! 柊アヤカで……す?」


「……」


 出てきたのは、黒いショートな髪を纏った女の子。前髪はぱつんと横一線になった状態で整えられていて、少し幼く感じる。


 そして身長。私も百六十センチに届かないくらいで小柄な方だが、彼女はもっと下。多分百五十はあるだろうけど、百五十五があるかと言われると悩ましい、それくらいの背丈だ。


「……わいい」


「へっ?」


 この人が、あの……?


 私の中の夕凪ママへの印象とこの見かけの間で、違和感が溢れかえっている。


 勝手なイメージではあるが、ずっと家に引きこもっていてイラストを描き続けているという職業の特徴と、何より彼女自身の良くも悪くもあまり女の子らしくない喋り方を聞いているから。てっきりもっとこう、ザ•引きこもりみたいな人が出てきたりするものなのだろうかと思っていたけれど。


 もしかしたらこの人は夕凪ママと一緒に住んでいる姉妹か何かで、全くの別人な可能性も────


「私の娘……クッソ可愛いんだが? なあ、お前マジで、柊アヤカなのか……?」


「は、はい。そう、です……」


 いや、違う。今ほんの少し声を聞いただけで分かった。


 この人は……


「でっけぇぇぇ!! な、オイそのおっぱい本物か!? 揉んでいいか!? というか吸いたい!! うっひょぉぉ!! Vtuberの中身がマジもんの美少女とか、ラブコメかよォォォオオ!!!!」


 間違いなく、夕凪ママ。私が尊敬している、もう一人の人物だ。


 ……正直今の発言を聞いた後に尊敬云々とか、あまり言いたくないけれど。うん、残念ながらこの人だ。


 アカネさんの時はしっかりと裏表があったけれど。ママはどうやら普段配信している時のあの姿が″素″らしい。実家のような安心感がありつつも、もう少し現実だと抑えめな人であってほしかったという気持ちもある。


「あ、あの……」


「じゅるっ。おぉっと、ごめん。こんなとこで立ち話はあれだよな。入って入って! ぐへへ、私の巣にご案内だぁ」


「お、おおお邪魔、します……」


 なんだろう。普段からアカネさんも大概だけど、ママはそれを越している気がする。


 セクハラの種類が違うからだろうか。ママはこう……少し親父臭い。エッチなおじさんって感じが凄いんだ。


 黙っていればその愛らしい顔つきもあって絶対可愛いキャラなのに。口を開くとおじさんのような発言や下ネタが簡単に溢れ出てしまう。


 まあこの人が本物だったことが分かるから、変に安心感はあるんだけど。


「ふふっ、敬語はよせよ。私とお前の仲だろ? 私はお前の生みの親なんだ。つまり私にはその溢れんばかりのえちえちおっぱいを好きにする権利が……ん゛んっ! ま、まあとにかくほら、フランクに、な?」


「……」


「あ、あれぇ!? ちょ、待ってアヤカ! なんで目を逸らす! というか帰ろうとするな!? 大事な話があるんだるぉぉぉっ!?!?」


「……じゃあもう変なこと、言わない?」


「絶対! 絶対……多分、言わない! メイビー! ビリーヴ!!」




 先が、思いやられるなぁ……。

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