第169話 平和を脅かす者
169話 平和を脅かす者
「んみゅ……おはよ」
「おう、おはよ。今日は珍しく起きるの遅かったな」
「う〜ん。なんか疲れてたみたい。朝ごはん急いで作るねぇ?」
「いや、だいしょぶ。簡単なものだけど作っといたから」
「ほえ?」
ふにゃふにゃでぽかぽかなサキの背中を押して、食卓へと連れて行く。
時刻は朝十時半。いつもは俺よりサキの方が早く起きて朝ごはんを作ってくれているのだが、今日は珍しく俺の方が先に起きたもんだから。たまには、と簡単な朝ごはんを作ってみたのだ。
元々俺だって一人暮らししていた身。自炊はある程度していたし、人並みには料理を作れる。
用意したのは白ごはん、お味噌汁。そしてピーマンと玉ねぎ、にんじんを入れた野菜炒めに卵焼き。
簡素なものばかりではあるが、言っても朝ごはんだしな。これくらいでも充分だろう。まあサキはいつも気合を入れて朝からめちゃくちゃ美味しい凝った料理を作ってくれるけど。流石にそこまでの料理スキルは兼ね備えていない。
「和人は、食べてないのぉ?」
「当たり前だろ。サキが起きるまで食べるわけない」
「っ……もぉ」
ポリポリ、とバツが悪そうに頬を掻きながら。サキは照れた様子で椅子に腰掛ける。
「「いただきます」」
まずはお味噌汁から。あつあつな状態から少し冷めて、極度な猫舌の彼女でも飲める温度になったそれを。まだ熱いと思って警戒しているのか、慎重に啜っている。
サキ激推しの牛乳をコップに二人分注ぎながらそれを眺めていると、やがて「ぷはぁ」と満足そうな笑みを浮かべたのを見て。少しほっとした。
「あったかぁい。お母さんが作ってくれるお味噌汁みたい」
「そうなのか? もしかしたら同じ味噌使ってるのかもな。それに入ってるの市販品だし」
「ううん。そうじゃなくて」
「え?」
「……多分、彼氏さんが入れてくれたからだと思う。好きな人の味は家族の味と一緒で、ぽかぽかするもん」
「〜〜〜っ!?」
えへへ、とはにかんで。どうやらまだ少し寝ぼけているらしい彼女は無意識に俺を照らさせて苦しめる。
普段からぽよろよとしていて、どちらかといえばおっとりとした性格のサキだが。こういう不意な責めというか、無自覚の愛情表現には。いつもドキドキさせられるばかりだ。
「ったく。変なこと言ってないで食べろ。他のもそれなりには美味しくできてると思うから」
「食べさせてぇ」
「お前なぁ……」
何の変哲もない、幸せな朝だ。
今日は二人とも予定がないし、このままずっと家の中でダラダラしていようか。確かアヤカの配信枠も今日はお休みだったな。
サキと温泉旅行に行って″繋がった″あの日から、より二人きりの日常というものが色濃い幸せに感じる。大学二年生の夏もそろそろ終わりが近づき、三年生という。将来のことを考え始めなければいけない年が訪れようとしているのはできれば考えたくないな。
「はい、口開けろ」
「あ〜〜〜んっ」
サキに餌付けをして、今日もゆるゆるな一日が始まっていく。
きっとそうなのだろうと思っていたのだが。
「? なあサキ、電話鳴ってるぞ?」
「むにゅ、もにゅもにゅもにゅ……誰ぇ?」
その平和に突如乱入してきた彼女の名は、「鳴川茜」。
────ああ、もの凄く嫌な予感がするな。
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