第168話 アカネの策謀

168話 アカネの策謀



「……ねえミーちゃん、見てこれ」


「なんです?」


 部屋でくつろいでいると、アカネさんから急に呼び出しがかかる。


 今日は休日なのだからゆっくりさせて欲しいものだ、なんて思いつつも、重い腰を上げて彼女の元へ行くと、指差していたのはパソコンの画面。


 そこに映し出されていたのは「日本人Vtuberチャンネル登録者ランキング」というものだった。


 一位から六位までは、登録者百万人を超える超絶人気Vtuber達。そして何人かを挟み十一番目に、赤羽アカネの文字がある。


「ランキング、落ちました?」


「う〜む、そうなんだよぉ。やっぱり伸びが凄いんだよねえ……企業所属の人って」


 企業所属。その名の通り、Vtuberとしての企業に属しているライバーさんたちのことだ。


 最近はその数も徐々に増え始め、一期生、二期生、と。その数と規模を増やしてVtuber界隈を蹂躙しつつある。


 何より企業という面で強いのは、同じ企業の別の子から視聴者がこちらへ流れてくることや、そして何より頻繁に行えるコラボなどの存在。企業が大きくなればブランド力も増大していくし、そこら辺はやはり個人勢と大きな格差があるだろう。


「アカネさんって意外とそういうところ気にしてますよね。普段はあんなにおちゃらけてるのに」


「むむっ、何をぉ!? そりゃ私だって本気でやってるもん! やるからにはテッペンを取る! そう意気込んでは、いるんだけどねぇ……」


「珍しく弱気ですね」


「うるしゃぁい! 私だって悩む時くらいあるわい!!」


 アカネさんは、好きなものには全力でぶつかっていく人だ。


 全力で、一直線で。そんな姿が私には光り輝いて見えて、少し羨ましい。


 けどそんな人でも悩む時はある。意外と動画の伸びとかは気にしてるし、流行も掴んで離さないといった勢いで調べ尽くして。


 結局は才能のあるこの人でさえ、人並みならない努力をしている。そしてそんな人が頭を抱えるこの事案は、きっと難しいことだ。


「企業……ですか。個人勢トップのアカネさんですら中々追い越せない存在。何か策はあるんですか?」


「……くふっ」


「くふ?」


「くふふふふふっ! よくぞ聞いてくれたミーちゃん! こうやってくよくよ悩んでるのは私らしくないしね! 実は昔構想していた、企業勢を引きずり下ろす策があるんだよ!!」


「ひ、引きずり下ろすって……」


 某海賊のようなことを口にしながら高笑いするアカネさんは、私の肩をバンバンと叩いて。まるでハイにでもなったかのように……いや、長年の悲願が成就する目処でも立ったかのように。考えありのニヤリ顔を見せつける。


「ミーちゃん、見てなよ。新しい世界を見せるって約束、まだ終わりじゃないからね。ここからまだまだ忙しくなるぞォォォ!!!」


「こ、これ以上忙しくなるんですか!? 私最近忙しすぎて既にクタクタなんですが……」


「ふっふっふ。まだまだこんなもんじゃ足りないよなぁ? 赤羽アカネは今こそ、次のステージへ羽ばたく時だ!!」


「ぜ、全然聞いてくれてないし……」


 本当、変な人についてきてしまったものだ。


 今でも充分、一から始めたにしては出来すぎた成果を手にしているというのに。


 この人の向上心は、終わりを知らない。


「……はぁ。分かりましたよ。乗りかかった泥舟ですからね。最後まで付き合います」


「よし来た! それでこそ私の相棒……って、今泥舟って言った!?!?」


 本当、不安だ。




 でも不確かな、そんな未来にワクワクしている自分がいることもまた、事実だった。

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