第167話 溢れ出る″好き″
167話 溢れ出る″好き″
「あ、あのっ! 俺……あなたに一目惚れしました!! 俺と、付き合ってください!!!」
「……へ?」
それから和人と再会することになったのは、大学に入学してから一ヶ月ほどが経った時だった。
いつ彼と再会してもいいように、必死で美容のお勉強をして。長すぎる髪も切ったし、眼鏡はコンタクトに変えた。
気づけば彼のことを考えるようになっていた私に突如降りかかってきた″告白″という幸運。頑張ってよかったと、その時初めて喜びを噛み締めることができたんだ。
「わ、私で……いいんですか?」
「はい! なんというか、その。恥ずかしい話なんですけど、完全に俺一目惚れしちゃってて。それで、いてもたってもいられなくなったというか……」
流石に大学の廊下でいきなり告白されたのにはびっくりしたけど。周りにも気づかれて、凄いザワザワしてたし。
でも、そんなことはその時の私にとってはどうでもよかった。
多分一目惚れという言葉を使っている時点で、私と彼が既に出会っていたことには気づいていないだろうけれど。
それでいい。それだけ、私は変われたということだから。
私は変わった。変えてもらった。彼の優しさに。
初めて抱いた恋心は簡単に花開いて。これまではただただ苦手で怖い存在だと思っていた男の子を、まさか自分がここまで愛しいと思う日が来るなんて。
「じゃあ……えっと。よ、よろしくお願い、しましゅっ!」
私を変えてくれた人。黒田和人は、私にとって最愛の人であり。そして────恩人だ。
◇◆◇◆
「すぅ、すぅっ……」
「ふふっ、気持ちよさそうに寝てる。今日はお疲れだったもんね」
情けない寝顔を晒しながら私の隣で眠る彼の頬を、つんっ、とつついてみる。
ピクッ。目元が少しだけ動いてもぐっすりな和人はとても可愛くて。つい笑みが溢れてしまった。
私は彼に、何度変えてもらったのだろう。
恋を知った。幸せを知った。自分を貫く大切さを知った。趣味に嘘をつかない心を知った。
彼に心を溶かしてもらうたび、私は少しずつだけれど。私を好きになれたんだ。
何もかも、和人のおかげ。きっかけはたった一回言葉を交わしたという、それだけのことだったかもしれないけれど。
私にはその″少し″が、ずっと足りなかった。それを埋めてくれた彼のことを愛している今が、私にとっての何よりの幸せだ。
「本当は、私が先に好きになったんだからね? ……バカ」
身体がほんのりと熱くなっていくのを感じながら、そっと彼の無防備な唇にキスをする。
じわりと幸せが流れ込んでくると、ぎゅっ、と心臓が好き好きになって。これを何と表せばいいのか、的確な言葉は持ち合わせていないけれど。
とにかく、幸せで震えていた。
「しゅき……しゅきっ。ずっと一緒にいてね……?」
身体がむずむずして和人に触れたい欲求が溢れると、私はすぐさま彼の布団に潜り込む。
男の子の、ゴツゴツした背中。そこにおでこをぴっとりさせながら彼の身体を抱きしめると、本当に怖いくらい簡単に心が凪いで。
「私、あなたの彼女になれて……よかった」
きっとこの初恋を、君に打ち明けることは無いけれど。
私だけは知っている。ずっと、覚えている。
彼がかけてくれた、優しい言葉を。不恰好な笑みを。恥ずかしそうに紅潮させていた頬を。
忘れない。絶対に忘れたりなんかするもんか。
こんなにも大好きな、世界一愛している人の私だけが知っている記憶。
「お休み……和人」
自然と閉じていく瞼の重さに争うことはなく。身を委ねて。
────彼に好きを伝えながら、眠った。
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