第170話 予想外の一撃
170話 予想外の一撃
「ふっふっふ〜! アカネさん参上!! サキちゃぁぁ〜〜ん!!!」
「ひゃぁっ!?」
「えへへぇ、なでなでしてぇ?♡」
「ミーさん。止めてくれないんですか?」
「私はもう諦めましたよ……」
家の中が一気に騒がしくなる。
台風の間になっているのは当然、アカネさん。何やら大事な話があるとのことで俺たちの家に上げている。
なのだが、来るなり安定ムーブのサキへの全力ダイブ。本当に話なんてあるのだろうか……。
「アカネさん、それくらいにしませんか? 今日は珍しく真面目な案件で来てるんですから」
「わ、私はいつも真面目だよ!?」
「いやサキさんの胸の中に埋まりながら言われても。あなたそれ男の人がやったら一発で逮捕ものですからね?」
はぁ、とため息を吐くミーさんには、いつものような迫力というか。毒がない。目の下には薄らとクマができていて、身体全体から疲労感を漂わせていた。
アカネさん関連の業務が忙しかったのか。もしかしたら今日二人がここに来た理由にも何か関連があるのかもしれない。
まあ……当のアカネさんはというといつも通りの破天荒ぶりなわけだが。
「全く、仕方ないにゃ。じゃあ話……始めよっか」
俺が机に四つのコップを置くと同時に。アカネさんはのそのそとミーさんの隣に座って、俺とサキとは対面の位置をとる。
どうやら話があるというのは本当のようだった。それに真面目な案件、というのも事実らしい。
────アカネさんの雰囲気が変わった。
「まずは突然押しかけてごめんね。私、思い立ったら即行動がモットーだからさ」
「そ、それはその、全然いい……ですけど。一体どうしたんですか?」
「うん。今日は提案をしに来たんだ。サキちゃん……ううん。柊アヤカちゃんに」
「えっ……?」
ドクンッ、と心臓が脈打つ。隣に座っているサキからも、容易に緊張の色が伺えた。
Vtuber関連の話。つまりそれは言い換えるなら、仕事の話だ。
ただ前のようにコラボしようとかそんなこと、わざわざこうやって場を設けて話したりもしないはず。アカネさんならそれを口実に会いに来るのも充分にあり得はすふことだが、今日がそうじゃないのは見てとれた。
つまり、今日これからされるのはそれ以上の話。俺はVtuberの内部事情には詳しくないが、最近はアカネさんもアヤカも人気は上昇中。右肩上がりに登録者も増えているのが現状なので、悪い話をされることはないとは思うが。
「今からするのはあくまで提案の話。私はこれをアヤカちゃんに強制する気はないし、嫌だと思ったら遠慮せずに断ってほしい。アヤカちゃんの想いを踏み躙ってまで自分のお願いを通すなんてことは、絶対にしたくないからね」
「は、はい。わかりました」
「ありがと。じゃあ早速だけど、言うね」
ゴクリと息を呑む。
いつも奇想天外で、どんな行動を取るのか全く読めない彼女の、ここまで畏まった提案。サキも気持ちは同じなようで、机の下に置いている手が軽く震えている。
「私と、グループを組んでほしいの。赤羽アカネと柊アヤカちゃんをトップに据えた、Vtuberとしてのグループを」
「…………え?」
それは、あまりに予想外の一撃。
彼女の真剣な眼差しに当てられながら。俺とサキは思わず、固まってしまったのだった。
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