第164話 私を変えてくれた人1
164話 私を変えてくれた人1
「あわわ、あわわわっ……」
「ちょ、サキ!? 落ち着きなよ! いくらなんでも緊張しすぎじゃない!?」
「だ、だって……だってぇ……っ!」
気温は急激に下がり、本格的な寒波が襲ってきていよいよ本格的な冬が始まろうかという、二年前の十一月。
私は同じ大学の他学部を受験する優子と一緒に、最寄駅から電車に乗った。
基本的に大学受験はもっと後に行われるものだが、私がこの日受けたのは二教科による推薦受験。といっても成績優秀だから受けられるとか、そういう特別なものではなく。今の高校生はまず行うであろうものだ。
人によっては滑り止めをここで受かって安心感を。凄い人なら第一志望を通過して、一般を経ることなく最短で勝負をつける場所。″とりあえず″で受ける人も多いから、当然倍率は一般受験より高い。
「そんな気負わなくても。この推薦受験なんて受かればラッキー程度なんだからさ。もっと気楽に行こうよ」
「……そうやって、優子はいつも先にゴールするんだ。マラソンの時も、定期テストの時も……」
「暗い! 暗いよサキぃぃ!!!」
吊り革に捕まりながら、辺りを眺める。
ガタンゴトンと音を立てて揺れる車内は、学生服を着た人達で埋め尽くされていた。
通勤ラッシュの時間を外れているからか、大人の人は少ない。多分周りの人たちはみんなライバルで、同じ大学を受けるのだろう。
考えただけで胃がもたれそうだった。
私は、とにかく勝負事に弱い。何をしてもドジで、どれだけ勉強をしてもいざ本番になると凡ミスばかり。
とにかく本番に弱い。そんな自分の性分が本当に嫌いだった。今通っている高校に入れたのももはや奇跡だと思っているほどだ。
(私は、この人達に勝たなきゃいけないの……?)
塾には毎日通った。優子と教え合いっこもした。
できることは全部してきたつもりだ。必死に必死に頑張り抜いて、この推薦入試のことを本番前の練習だなんて思わずに。一日一日を受験生として無駄なく過ごしてきた自信がある。
けれど……自分が大学に受かるという、その未来は。一向に浮かばなかった。
(いっそ私も、優子みたいに考えられたら楽だったのかな)
優子はいつも明るくて、地味な私なんかと違ってムードメーカー。友達だって多いし、恋愛経験も豊富。
本当に、私なんかと大違い。蹲っている私と違って、優子はいつも前を向いている。
「ね、優子は……さ。怖く、ないの?」
「え? 何が?」
「落ちたら、だよ。もしここで落ちたら、もう一般受験しかない。もしそこでも駄目だったら、浪人だよ? 私、一つでも大学に受かれる気がしないよ……」
「うーん、そうだなぁ……」
一度、考えるように上を向いて。
すぐにもう一度私と目線を合わせた優子は、言う。
「ま、それは落ちた時に考えればいいかな。落ちたら、なんて。考えるだけネガティブになっていくだけだし」
「そっ、か」
「だからさ、サキも一旦暗い考えは捨てな? 私学部は違っても優子と一緒の学校行きたいし。せっかくできた親友だもん。一緒に走り抜けようよ」
「……そんなこと言って、置いていくくせに」
「ねえもしかして中学校の時のマラソン、まだ根に持ってるの!? ごめんって言ってるじゃんかー!」
「ふふっ、冗談だよ。ちょっとだけ元気出た。ありがとね」
眼鏡の先に映る眩しい親友の姿を見ながら、一度小さく息を吸って。整える。
朝から何も喉を通らず、空白だった肺が大きく揺れる。それは、受験会場へと辿り着いてしまったことを示す合図だった。
不安は拭えない。拭っても拭っても、きっとまた湧いて出てくるのだろう。
でも……隣にいてくれる親友が、その心の負担を。少しだけ軽くしてくれた。
「行こっ、サキ」
「うん。行こう!」
この日。私の人生の色は、大きく塗り変わる。
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