第162話 思い出のアルバム

162話 思い出のアルバム



「ふふふ、これが幼稚園でぇ、ここからが小学生! ほら、ちょっとずつ今の面影出てきたと思わない?」


「本当ですね。クリッとした目元とか。まだ幼いですし薄らではありますけど、サキっぽさが出てます……」


「ね、ねぇやめよう!? 私の前で私のアルバム見るなんてなんの拷問なの!?」


「あらぁ? あ、そっかぁ。サキもしかしてまだ″あのこと″言ってないんだっけぇ?」


「やめて! 本当にやめてぇぇぇ!!!」


 あれ? なんだこの雰囲気。


 サキのお父さん、もとい和重かずしげさんの威厳が崩壊し、緊張溢れるボス戦が終わったのも束の間。新たに桜さんという裏ボスが現れて、バトルが続行されるのかと思いきや。


 元々俺とサキとの付き合いを認めてくれている人なだけあって、バトルどころか和んだ雰囲気で。気づけば持ってきてくれたサキのアルバムを三人で眺めて談笑していた。


「サキ? あのことってなんだ?」


「あ、ぅあ……あぅあ!! それだけは本当にダメ!! いくら和人が相手でも、絶ぇっ対ダメなのぉ!!!」


 ふふふ、と妖艶な笑みを浮かべながら焚きつけるだけ焚き付けておいて高みの見物を決め込んでいる桜さんの表情を見ながら、俺はサキの異様な動揺っぷりに驚いていた。


 確かに自分の写っているアルバムを他の人に見られるというのは中々に恥ずかしい。だが″あのこと″というのは、どうもそんなレベルに収まる話ではないらしい。


(あのこと、ねぇ……)


 今のところ、小学生になったサキの写真を見た感じはこれといって変なところはない。なんの変哲もない、ただ今のサキの面影を残した可愛い幼女だ。


 恐らくはサキの過去に関する何かなのだろうが。


 俺がサキの大学生前で知っていること……


『あの″男嫌い″のサキに彼氏ができたんだよ? 気になるじゃん〜』


 あれ、そういえば。優子さんとカラオケ店で初めて会った時、こんな会話があった気がする。


 男嫌い。たしかサキは女子校から今の大学に来たんだったっけか。もしかして昔男と何か……いや、それは考えたくないな。


「まあいいや。とりあえずこのアルバムに秘密は眠ってそうな気がするし。……続き見るか」


「にゃぁぁぁぁっ!? やめて、やめてぇ!!」


「ふふふふふ。えいっ」


「ぴっ!?」


 ガシッ。いつの間に背後に回ったのか。ステルス機能全開の桜さんがサキの腰に手を回す。


 バタバタと脚を上下させ子供のように暴れるサキだが、二人の力の差は歴然。涙目の彼女が俺のアルバムをめくる手を止める事はできなかった。


 一体何が眠っているのだろう。どこか宝箱を漁るような気分でアルバムをめくっていく。


 小学生二年生、三年生、中学生。中学二年生、三年生。


 少しずつ、サキの顔が今に近づき成長していく。


 だが、違和感が訪れたのは高校一年生。そこでサキの容姿が、ガラリと変わった。


「……え?」


 それまでは活発的で、今に近い雰囲気の女の子が。その瞬間から眼鏡を付けて、短かった黒髪を伸ばしていたのである。


 目元ギリギリまで伸びた前髪と、かけられた眼鏡。そして大人しい雰囲気。


 一言で言うと、地味だった。


(どこかで見たことがあるような……?)


 いや、きっとサキ自身と出会っていたというわけではないだろうが。きっとこの″どのクラスにも一人はいる″という雰囲気を醸し出している容姿が原因でそう思ってしまったのだろう。


 よく見ると目は大きいし、鼻筋も徐々に整ってきて美少女ではある。が、長い前髪と黒淵の地味眼鏡がそれを掻き消していた。


「あっ……あぁっ!! ああぁぁっ!!!」


「あらあらぁ。バレちゃったわね? サ〜キっ♡」


 判明した衝撃の事実。


 元々大学に入りたてで俺が一目惚れしてしまった彼女も、決して今のように明るい性格ではなかった。どちらかといえば地味に近い、そんな女性だった。


 けれどサキはその後Vtuberという活動を通し、少しずつ明るい性格へと変化。今の彼女がいる。


 そういえば昔、サキは頑なに制服姿だったお前を見たいと言った俺の要求を断っていたっけ。どうやらその原因は、これだったようだ。




 サキの今の姿。これはズバリ……大学デビューだ。

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