第161話 裏ボス、登場
161話 裏ボス、登場
「あ〜あ。せっかく無理して頑張ってらしたのにねぇ。思ってたより早く決壊しちゃいましたかぁ」
「え? あ、え?」
巨漢が急に泣き出したかと思ったら、隣にいた桜さんに泣きついた。
お゛お゛んお゛お゛んと声を荒げ、泣いている。さっきまで俺にボロボロに泣かしてやるとか言ってたあの人が。これは一体どういうことなんだ。
「あ、あれ? お父さん……?」
「もう、ダメでしょサキ。お父さんイジめたら。お父さん、サキのことを心配して言ってたんだからぁ」
「わ、私のせいなの!? でもあれはお父さんが和人のことを悪く言うから!!」
まさか、まさかとは思うが。
この人、サキが大の弱点なのか……?
「ふふっ、和人君。お父さんね、外当たりは強いし外見もこんなんだから怖がられがちなんだけど。実は……私とサキに怒られるとすぐにメンタル崩壊しちゃうの。私なんてこの人と一度も口喧嘩したことないくらいなんだから」
「えぇ……」
じゃあ何か? あんなにビクビクして色々と用意と準備したの、無駄だったってことか?
というかオイサキさん。そういうことなら何で俺にそうだと言ってくれない。サキにちょっと反論されただけでこうなるお義父さんどって知ってたら、もう少しリラックスしてここに来れたのに。
「あっ、サキを責めないであげてね。お父さん、これでも今まで我慢してたんだから。多分今一番驚いてるのはサキだと思うわよ?」
「う、うん。お父さんが泣いてるところなんて初めて見た……」
「本当は入学式とか卒業式、合唱コンクールに授業参観まで。事あるごとにイベントの後サキの成長を喜んで隠れ泣きしてたのよぉ〜? まさかサキと面と向かってちょっと言い合っただけでこうなるとは、流石の私も予想できなかったわぁ〜」
ずず、と湯呑みに入った緑茶を飲みながら。桜さんはおおらかな笑みを浮かべて語る。
まあ要するに、今日のは全部茶番だったというわけだ。お義父さんはただの親バカで見た目が怖いだけ。俺がボロボロに泣かされてサキが強制送還、なんてれことももう無さそうでとりあえず一安心だ。
「ぐすっ。サキに、お父さんより彼氏の方が好きって言われた……。嫌だ、嫌だぁ……まだサキといたいぃ……」
「もぉ、お父さん? ワガママ言わないでください。サキだってもう大人なんですから」
「お、お前もそれでいいのか!? あんなヒョロ骨にサキを取られて────」
「ヒョロ骨じゃありません。和人君です。いい加減そのふざけた呼び方やめましょうね?」
「…………はい」
凄い。まるで猛獣と猛獣使いだ。あの半ヤクザな見た目のお義父さんが完全に調伏されてる。
ふふふ、と妖艶な笑みを浮かべながら膝の上で泣いているお義父さんを威嚇オーラと頭なでなでという飴と鞭で躾けつつ、桜さんは言う。
「サキの泣き虫って絶対お父さんからの遺伝よねぇ。あと甘えんぼなところも。見た目は私で内面はお父さん。本当、血が繋がってるって実感するわぁ〜」
桜さんは多分、こうなることが分かっていたんだろう。
あの口ぶりからしてサキとお義父さんが言い争う、なんて場面は今まで一度もなく、威厳を保ちながらも甘々な環境でサキを育ててきたのだろうが。今回、俺が悪く言われることを。そしてサキがそれに対して言い返すことを予期したうえでこの場を設けたわけか。
桜さんからすれば俺たちとじっくり話す機会を作れる上に、夫も無理矢理納得させられる。あれ? もしかして真に警戒すべきだったのって桜さんの方だったか。
「はい、とりあえずお父さん編は終わり〜。ね、和人君。ここからは私とお話ししましょ? サキとの今後なんかも含めて……ね?」
「は、はひ」
ヤバい。いざ面と向かってみたら全然この人の方が怖いんだが。
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