第155話 ミーちゃんデビュー配信1
155話 ミーちゃんデビュー配信1
:wkwk( ^∀^)
:ようやくミーちゃんのお声が聞ける……あと五分だッッ!!
:まさかマネージャーさんがVtuber化すると思わなんだ。最高だぜ!!
「んひぃ……いっぱい人がいます……」
「そりゃそーだよ! だってミーちゃん、配信前から既に時の人だもん!!」
アカネさんが一週間前に突如行った告知。自分のマネージャーであり、時折配信に名前を出していた人物「ミーちゃん」をVtuber化させるというツイートは、一夜にして大バズりを見せた。
まず何よりの要因なのはアカネさんの描く完璧すぎる立ち絵で、現実の私をモチーフにした青髪美少女(顔面だけは可愛くしすぎだと思うけれど)に、無理やり取らされた私の声を載せた告知PV。これが五万いいね三万八千ツオートという訳の分からない数値を叩き出した。
加えて同日早速開設された「ミーちゃん/Vtuberチャンネル」はこれまでの一週間で既に十万人もの登録者の山が聳えられ、あと五分で始まる初配信待機所には同接者二万人という異例中の異例。改めて、アカネさんの凄さを実感させられる。
「ど、どうしましょう。私、なんだかもう緊張しすぎて涙出てきました……。に、にに二万人の前で、喋るなんて……」
「だいじょーぶ。大丈夫だよ。私が後ろについててあげるから。不安な手、握ってあげようか?
「お願い、します……」
「はぁい」
きゅっ、と意外に小さいアカネさんの暖かな手が、私の手のひらにそっと乗せられて。弱い力で、ゆっくり握られた。
二台のゲーミングチェアで並んで横に座り、隣で微笑むアカネさんの手と私の手が、太ももの上で結ばれる。それだけで、ほんの少しだけ。緊張が和らいだ。
怖い。人の前で自己紹介をするのは、苦手だ。
少し目を閉じただけで、就活をしていた頃の、私が女だと知った瞬間落胆していた面接官の顔が浮かんでしまう。何回も、何十回も、私の自己紹介には興味がないと、そんな目で見られた経験が、私の胸を突き刺す。
「大丈夫だよ。ここには、ミーちゃんをいらないなんて思ってる人は一人もいない。この二万人の人たちは、全員ミーちゃんに会いたくてここにいるの」
「私に、会いに……?」
「うん。それだけミーちゃんは求められているってこと。だからさ……肩の力を抜いて、ありのままで挑んでみよう? そしたら、きっと乗り越えられるよ」
「っ!? アカネさん、もしかして……」
「さ、そろそろ本番だよ。前向いて」
乗り越えられる。その言葉は、ただ私の今置かれた緊張する舞台に関してだけの言葉ではないように感じた。
マネージャーという仕事上、初めて会う人と挨拶して、打ち合わせして。そんな機会は多かった。当然私はその度どこか気分が悪くなりながらも、なんとか心を平常に保ってやってきた訳だけど。
アカネさんは、まだ私が過去のトラウマに縛られ続けていることを見抜いていたのだ。今日の舞台は、きっとそんな私のために。
私が、完全に過去を払拭して前に進んでいくために。わざわざ、用意してくれたのかもしれない。
被害妄想が過ぎるかもしれない。でもアカネさんは、私のためなら平気で無理をする人だ。きっと問い詰めても「自分のためだ」と言うだろうけど。私には分かる。
(分かり、ましたよ。私……頑張ります)
無言で、アカネさんとアイコンタクトを取る。「行ける?」と無言で問うそのまっすぐな瞳に、私はそっと頷いた。
『は、はじめまして。私……アカネさんの専属マネージャーをしております。ミー、です!!』
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