第154話 ミーちゃん、Vtuberになる

154話 ミーちゃん、Vtuberになる



「ミーちゃんミーちゃんミーちゃん!!」


「朝からうるさいですね……。なんなんですか、私の布団の中に入ってきてまで嬉しいことがあったんですか?」


「あったよ勿論! そして当たり前のように私の顔を踏みつけるのやめようね!?」


 グリグリ、と足裏で頬を踏まれ、布団に押し付けられながら。アカネさんはそれでも私への特攻をやめない。


 あれほど私の部屋に入るときはノックを、って言ってるのに。無理やりベッドに潜り込んできて私の下半身を狙ってくるとはどういう了見だろうか。とりあえずもう少し踏んでおこう。


「あ、でもミーちゃんの脚柔らかぁい。これなら踏まれるのもやぶさかでは……いででででででで!?」


「どうやら罰になってないみたいなので踵で行きます」


「待って! へぇるぷっ! ごめんなさい!! 踵は流石にMの私でも持たないです!! いだいっ! いだいですミーちゃんざまぁ!!!」


「はぁ。それで? なにがあったんですか」


 アカネさんは最近、やたらと私に痛いことをされたがる。


 事あるごとに頬を引っ張ったり頭を引っ叩いたりしていたせいで何か変なものに目覚めてしまったらしい。おかげで今では足で踏まれても喜んでしまう始末だ。


 いっそのこと手を出さなくても言うことをちゃんと聞いてくれれば楽なんだけれど。口だけでは全然聞いてくれないし、なんなら無駄に地頭がいいせいで口喧嘩で勝てる自信がない。まあ……もう諦めつつあるけれど。この人が変なのは昔からだ。


「ミーちゃんの身体が出来上がったんだよ! 前までは顔だけだったけど、ついに全身完成したんだぁ!!」


「え、なんですか。私のプラモデルでも作ってるんですか? 普通に引くんですが」


「……? あれ? もしかして私、言ってなかったっけ?」


 モゾモゾとベッドから降り、立ち上がったアカネさんは、私にとんでもないことを告げる。


「ミーちゃん、一週間後にVtuberとしてのデビュー配信だよ? ちなみに告知は今日の夜するから」


「……えええええぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」


 ここ数年で、一番の声量が出た。


 私が、Vtuber……? え? 本当に聞いてない。


 わちゃわちゃとテンパっている私を見て、アカネさんは楽しんでいるようだった。どうやら確信犯らしい。


「い、嫌ですよ私!? そんな、人前に出て喋るなんて……っ! できない! できないです!!」


「ふっふっふ。ミーちゃんはもう断ることなんてできないのだよ。なんせ、ミーちゃんの身体のモデレートはもう終わっちゃったからね。私が汗水流して努力した結晶を無駄にするのかにゃあ?」


「うっ……!」


 アカネさんは、ママを持たない。


 何故なら彼女には絵を描く力もあるからである。


 トーク能力、原稿なんかを考える文才。それに加えて編集能力に絵を描く才能まで……ともはや完璧超人すぎて嫉妬すらできないレベルだ。実際に「赤羽アカネ」という身体は彼女自身がデザインし、モデレートして完全体としたもの。


 そんな彼女はとうとう、一緒に住んでいる私に気づかれないように一人のVtuberを作り出すまでに至ってしまった。もう私は怖い。この人はどれだけチートなんだ。


 しかもタチが悪いのは、それを完成させてから持ってきたこと。一人のVtuberの身体が完成するまでにどれほどの時間がかかるかは私も浅知恵ながら知っているから、余計に断りづらい。


 そして、もっと辛いのは────


「安心して、デビュー配信には私もついてるから! まずは私のマネージャーっていう枠で、あくまでたまに出てくるって感じのキャラ付け! ね、これなら多少は気持ちが楽でしょ?」


「そ、それは……そうかもですが……」


「私、ずっと前からミーちゃんと一緒に配信したいって思ってたんだぁ。こんなに可愛い子が完全裏方なんて、絶対勿体無いよ!!」


「……うぅ」



 私が、憧れであるこの人と一緒の舞台に立てるということを。心の底からは……拒絶できないことだ。

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