第151話 アヤ凪コラボ配信3

151話 アヤ凪コラボ配信3



『うぅ、酷い目にあった……』


『さあ娘よ、気を取り直して真面目に攻略しようか! キランッ(*゜▽゜*)』


『あー、どうしよう。今もしかしたらライバー人生で初めてムカついてるかもしれない。ママのこと、心の底から殴りたいや』


『いやんっ。私どっちかというと殴られるよりも殴る方が性癖的に……』


『隙アリッ!!』


『甘いわぁ!!』


 第一ステージ、一つ目の谷の前。二人は配信を始めて三十分が経っているにも関わらず、未だにそこでイチャイチャ殴り合いをしていた。


 いや、もはや殴り合いとも言えないか。夕凪はまだ一回も脱落していない(アヤカが脱落したあとゲームの仕様上仕方なく谷に飛び込んではいるが)のに対して、アヤカの脱落回数はもう五回。隙を見て殴りかかっては、カウンターで突き落とされてを繰り返している。


:そろそろ真面目に攻略してもろて(n回目)


:虐待配信で草 ¥300


『分かった、もう分かったよ。もう私が折れるよ……! だからせめて第一ステージだけでもクリアしよう!!』


『ふっふっふ。母娘◯だな任せろ! 大好物だ!!』


『??? 母娘、ど……? なんかよく分からないけどいいや!!』


 アヤカが専門的知識を付けていないのを良いことにとんでもない爆弾発言をした夕凪だったが、何事もなかったかなように切り替えてにんじんを持つ。どうやら協力プレイをしようという気があるのは本当らしい。


 彼女はにんじんを持ったまま、持ち前のゲームスキルを活かして先行する。ぴょんっ、と脚ににんじんを挟んだまま簡単に谷を超えると、その先でアヤカを待った。


『てやっ!』


 だが、落ちる。


 勿論邪魔などしていない。アヤカがジャンプに失敗し、飛距離が足りずに物音一つ立てることなく落下していったのである。


『あっ……』


『……ごめんなしゃい』


『ま、まあ一回くらいはね? 多めに見ようじゃないか!』


 チラリと覗く地獄への道筋の始まり。それを見て見ぬ振りしながらフォローを入れて、夕凪は再び先行。


 ジャンプの仕方自体は、既に知識として入っている。それににんじんさえ持っていなければそれほど難しい動作でもないし、何度もここで躓くこともないだろう、と。


『……はにゃ?』


 だがアヤカ、落ちる。落ちて落ちて、落ちまくる。


『ざっけんじゃねえよアヤカおめぇ!! その馬鹿でかい胸にゲームスキル全部吸われたんかぁ!? ああん!?』


『だ、だって……だってぇ!! なんかボタンが上手く効かなくて────』


『言い訳してんじゃぁねえ!! 次やったら紐ビキニイラストの刑だかんな!!』


『ぴいぃ!? それだけは絶対にやだぁぁぁ!!!』


:もはや安定のムーブ、アヤ虐


:え? ここでそんな躓く奴おりゅ??


:ク◯ボー踏むのと難易度変わらんぞ


:アヤカにゲームスキルが無いの、胸に吸われてたからなのか(納得)


:紐ビキニの刑……ドキドキ( ・∇・)


『ぐぬぬ……九回目の正直だよ! てやっ!!』


『……ちっ。成功しやがった』


『ねぇなんで!? なんで成功したのに舌打ちなの!? んねぇぇぇ!!!』


 九回同じことを繰り返し、ようやく一回の成功。


 アヤカにとっては歓喜の瞬間。だが夕凪にとっては合法的に娘を紐一本まで脱がせる機会を失った。絵師として、生みの親として。それは落胆し舌打ちをするのに充分な理由であった。


『ふふんっ、さっさとこのステージクリアしちゃおうよ!』


『おうおう、調子乗るの早いぞ娘よ。お前、あれを越えれるのか?』


『……スゥッ』


 視線の先には、谷の幅より広くなった針山。



 アヤカの目から、すぅっとハイライトが消えた。

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