第145話 君と添い遂げる初夜2

145話 君と添い遂げる初夜2



 お風呂から上がった俺達は、しばらくして女将さんの運んできた晩ごはんを食べた。


 やはりアカネさん達は帰って来る気配がなく、サキが一度連絡を入れたところ今日は二人で一泊し、明日の早朝から車を走らせてこっちに戻って来るとのこと。しれっとミーさんが重労働を繰り返している気がして、大丈夫なのかと少し心配になった。


 しかし車がミーさんの私物(もしかしたらアカネさんと共有的な扱いかもしれないけれど)な分それを置いてタクシーで戻ってくるなんてこともできないだろうし、仕方がないか。そんなことを考えながら従業員の人達に下げられていく空の容器やお鍋を眺める。


「お腹いっぱいだ……。そういえばサキ、昨日と比べてちょっと食べる量少なかったけど、あんまりお腹空いてなかったのか?」


「むぅ、人を食いしん坊みたいに言わないでよ。……ちょっと控えめにしたの」


「え、なんで?」


 変なことを言うサキに問いかけると、何故か口を紡ぐ。顔はほんのり赤くなり始めていて、何故か恥ずかしそうで余計によく分からなかった。


「まあいいや。この後どうする? 最後の夜だし、何か思い出に残ることしたいよな……」


「う、うん。思い出、作りたいね」


「あ、卓球とかしに行くか? それか夜の海見に行くとか────」


 きゅっ。これから何をしようかとテンションが上がり始める俺の部屋着の裾を、サキが無言で摘む。


 さっきからどうしたのだろうか。明らかに少し様子が変で、普通じゃない気がする。


「と、とりあえず……布団敷こ?」


「お、おぉ?」


 ドキッとした。妖艶なその瞳に当てられて、身体がほんのり熱くなる。


 結局サキに言われた通り、俺は押し入れから布団を引っ張り出した。昨日と同じように横並びで、二つを並べよう。そう思っての事だったのだが、何故かサキは二つ出した布団のうち一つを押し入れに戻してしまう。


「布団、一つでいいのか……?」


「一つが、いい。今日は離れたくないから……」


「えっ?」


 パサっ、と一つの布団を部屋の中央に広げる。二人で入るには小さいサイズで、たまにサキの部屋のベッドで添い寝することがあったけれど、その時と同じくらいの密着度になることだろう。普段着のサキとの密着とは違い、浴衣のような旅館の薄い部屋着での密着。いつも以上にドキドキさせられるんだろうな。


 その時、俺の頭の中には一緒に寝るという選択肢しかなかった。普段からサキは甘えてきたりボディタッチを多めにする方だったけれど、一緒に何度も寝てもまだ”そういうこと”には至っていないから。それはサキの心の中に深く根付いた男子への苦手感や、未知の体験への恐怖心なんかが原因なのだろうと。俺から迫って怖がらせるのは嫌で、サキの方から来てもらえるまで待つことにしていた。


 いつそれが成されるのかは分からない。けれど、サキといられるなら不満は無い。今までだって、昨日だって。そうやって微かな触れ合いやキスでお互いの好きを確かめ合って、ここまで来たのだ。


 だから、今日も────


「和人……シよ? 私、和人と……シたい」


「っっっ!?」


 今日も、いつも通りのはずだった。


 しかし変化は、突然訪れる。顔を真っ赤に紅潮させて俺の顔を見ながら言ったサキの言葉が何を意味しているかなど、分からないはずもない。


(俺が、サキと……)



 背後の布団を見つめる。付き合っている男女が一つの布団で寄り添い合い行うことなど、俺には一つしか浮かばなかった。

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