第144話 君と添い遂げる初夜1
144話 君と添い遂げる初夜1
「ふぅ、疲れたぁ……」
「いっぱい遊んだなぁ。こりゃ明日筋肉痛だわ」
夕日が落ち始めた頃。俺達はめいっぱい遊びきり海から撤収すると、ホテルに戻ってきていた。
もうとにかく遊び疲れて、二人してくたくたで。部屋に戻ると畳に腰を下ろして脱力してしまい、サキにいたってはもうヒラメみたいにぺっちゃんこになっていた。
「こらサキ。俺達まだお風呂入ってないんだから布団入っちゃだめだぞ」
「わ、分かってるもん。って、そういう和人だって布団にもたれかかろうとしないでよ!」
「ギクッ」
海水に浸かっていたせいか、少し身体がベタついている。確かにこの状態で寝転がるのはよろしくないし、部屋着にも着替えるわけにはいかない。ひとまずお風呂に入らないことには始まらないな。
「お風呂入るか。ゆっくり浸かったらきっと気持ちいいぞぉ」
「お風呂ぉ……連れてって?」
「徒歩五秒だろうが。赤ちゃんかお前はっ」
「むぅ……」
不満そうに起き上がるサキと脱衣所に移動し、二人して背中合わせになりながらお互いの裸を見ないよう服を脱ぎ、タオルを巻く。慣れたものだな、なんて思いつつお風呂場に入ってかけ湯をして、ぽちゃんと大きな浴槽に浸かった。
「くあぁ」
疲れた身体に、ぬるぬるとした天然温泉が染み渡る。隣を見るともうドロドロに溶けてしまいそうになっているサキもだらしない声をあげていて、二人して顔を合わせるとつい笑ってしまった。
本当にあっという間だった。この二日間、アカネさんに突然連れて来られた旅行だったけど最高の思い出になった。美味しいものを食べて、気持ちいい温泉に浸かって。サキとは二人で海にも遊びに行けた。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもので、この怒涛の二日間は一瞬だったように感じる。もう明日の朝にはここを出てミーさんの車で家に戻るのかと思うと、なんだか名残惜しい。
「ふふっ、和人もしかして柄にもなく感傷に浸ってる?」
「が、柄にもなくってなんだよ。俺だって過ぎていく日々を寂しく思ったりだな……」
「うん。私もだよ。この二日間、あっという間過ぎてまだ帰りたくないもん。それくらい、本当に楽しかったから」
とんっ、と俺の肩に頭を乗せながら、サキは寂しそうに呟く。その頭を優しく撫でてやりながら、俺はきっと同じことを思ってくれているであろう彼女に、言った。
「また来ような。ここじゃなくても、色んなところ。俺達にはこれからも時間があるしさ」
「……うん」
きっとこの先も、サキとの付き合いは続いていく。一緒に暮らして、学校に行って。そんな日々の合間にまた、こういった旅行を入れて色んなところを一緒に観に行きたい。きっとサキとなら、どこに行っても楽しいはずだから。
(大学生じゃなくなっても、その先も。ずっと一緒にいられるといいな……)
頭の中に響く、生涯において最も大切とも言える出来事の名前。漢字二文字のそれを、いずれサキとすることができるのか今はまだ分からないけれど。俺はそれをするなら、サキとがいい。サキ以外となんて、考えられない。
「……俺今、もしかして結構恥ずかしいこと言ったか?」
「言った、ね。でも、嬉しい。和人が私とこの先のことを考えてくれてるんだって、ちょっと安心した」
「あ、当たり前だろ? 同棲……してるんだしさ」
かあぁ、と顔に熱が篭る。きっとこれは温泉が原因ではないのだろう。サキも少し下を向きながら、耳まで真っ赤にしていた。
「そろそろ、出るか。身体も洗わなきゃだしな」
「わ、分かった。背中……流してあげる、ね」
全く。小っ恥ずかしい台詞を吐いてしまったものだ。
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