第140話 茜色に染められし未来1

140話 茜色に染められし未来1



「はぁ……あの感じ、またダメだったか……」


 時は二年と数ヶ月前の春に遡る。


 小鳥遊南、二十一歳。数週間前に誕生日を迎え大学もこれから四年生になってしまう春。私は、公園のベンチの上で失意のどん底に落ちていた。


 だけどもう、どん底の底の底まで落ちすぎて初めは出ていた涙も今ではすっかり引っ込んでいる。


 そんな私が取り組んでいる人生の岐路とも言える難題はそう、就活である。


 三年の前期で単位をある程度取り合えた私は、夏から早めの就活を始めた。夏季募集の企業はそれほど多くはないが、行けるところからコツコツと。時にはセミナーなんかにも通ったりして、この春のうちに内定を決められるよう努力は尽くしてきた。


 尽くしてきた、はずなんだけど……


「今日で十一社目。もう面接官の反応で落とされるって分かるようになっちゃったな……」


 十社連続不合格。今日は十一社目の面接を受けて来たわけだが、あの面接官の顔を見ていれば分かる。私は確実に採用されない。


 そして落とされた理由も分かっている。私が女であり、かつ秀でた力を持ち合わせていないからだ。


 性差別を無くさんとする今の社会。女性にも就職の機会は増えて来たが、面接では聞かれる。


『ご結婚、ご出産のご予定は?』


 表向きでは男性も女性も平等に採用すると言っておきながら、いざ面接するとなればこの始末。おそらく妊娠や子育ての育休による会社に出られない期間の心配やリスク、面倒くささなんかを気にしているのだろう。


 それでも男性に勝らない長所があれば当然受かるだろうし、女性の新規採用が一人もいないなんてことは恐らくない。とどのつまり私自身に、そういったハンデを乗り越えて進めるほどの能力が無いからこうして誰にも貰ってもらえないのだ。


「大変だったのは分かってたけど……いざ味わってみると、辛いなぁ」


 会社だって自社の利益になる子を取らなければいけない訳だから、採用される人されない人が出るのは仕方がない。


 けれどふと思ってしまう。私は誰にも必要とされていないんじゃないか。要らない存在なんじゃないか、と。


 辛い。もう何もかもから逃げ出してしまいたい。心の中で何だそう叫んだか。叫ぶだけ叫んで、逃げるという行動にすら出ることはできなかったけれど。


 なあなあのまま受け続けても誰にも欲しがってもらえないのは分かってる。分かっているのに、もう何をしたら良いのかが分からなくて下を向くことしかできない。資格も、面接練習も。自分で隙がないと思えるほどに突き詰めたからだ。


 努力して、努力して努力して努力して。それでも報われなくて。私の心の灯火はもう、消えかかっている。


「はは、は。ほんと、ダメだなぁ私」


 今日はまだこの後面接がもう一件あるのに。身体がベンチに張り付いたみたいに重くて、動かない。もういっそこのままここで夜まで雑魚寝してしまおうか。どうせこんなテンションで行っても受かりっこない。


 言い訳に言い訳を重ねて、私は空を見上げる。憎たらしいほどに快晴で、照る太陽が私の肌をジリジリと焼いていた。


 でも、そうして数十分その場を動かなかった事が、私のその先の未来を大きく変えることとなる。


 何故なら出会う事になるから。私の全てをこれから覆し、荒らす。あの人に。



「君……大丈夫? 顔色、すっごく悪いよ?」

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