第138話 大人な二人の小旅行3

138話 大人な二人の小旅行3



「んへへっ、あれだね! にほんしゅってしゃいこうだね!! あ、卵もーらいっ」


「あー、アカネさんずるいです! 一人三個ずつって言ってたのにぃ!」


「んもぅ、仕方にゃいにゃぁ。はい、あーんっ」


「あーんっ!」


 数十分後。私達は泥酔していた。


 お祭り会場の端にある、喫煙ブースならぬ飲酒ブース。各自が購入したお酒を飲み、時にはつまみを食らう。そんな素晴らしいスペースで私とアカネさんは、お猪口片手に様々なつまみをたらふく食べ続ける。


「えへへ……たまごおいひぃれす。ささ、アカネさん。もう一杯!」


「おお、しゅまんねぇ。おっとっと、ぐへへ……くぅぅっ!! 沁みるぜこれよぉ!!」


 初めは向かい合った席でテーブルを囲んでいたのに、気づけばアカネさんは私の隣に移動していて。それでも今日は嫌な気がしなくて、楽しくお酌し合いながら日本酒を呑んでいる。


 ちなみに今は三瓶目。お互いに頭がふわふわし始めて、アカネさんなんてもうでろでろに溶けながら私の太ももに顔をすりすりしていた。


「へへっ、へへへっ。このひんやりもちもち感、たまりませんなぁ……」


「もぉ、アカネしゃん? 外で甘えるのやめてくらさいよぉ。耳からおしゃけ呑ませますよぉ?」


「やめてぇ。私耳弱いの知ってるでしょぉ? そんなの流し込まれたら公衆の面前でとんでもない反応しちゃうよぉ〜ん」


 焼き鳥もだし巻き卵も、唐揚げにジビエ料理も。さっきまでテーブルの上にあった食材は今ではもう全て私達のお腹の中。


「ミーちゃん、顔まっかっか〜。もうしょろしょろ限界なのかにゃぁ?」


「ふっふっふ。日本酒は意識が朦朧とし始めてからが本番なのれす。まだあと一本はいけますよぉ〜」


 太ももの上にいるアカネさんの頬をむにむにと引っ張りながら、私は余裕をアピールする。だがそんな時、私達のことを心配したのか一人のおじさんが紙コップに入れた水を二杯持ってやってきた。


「姉ちゃん達、大丈夫か? って……まさかこれ全部二人で飲んだのか!? そりゃこうもなるってもんだ……」


「あぁ、河野鳥を売ってたおじしゃん」


「呑みすぎだな。ほれ、水飲んどけ」


「えぇ〜、いらないでしゅよぉ。わらひはまだ呑めるんでしゅから!」


「ぶっ倒れられたら困るんだよ。ほら、いいからっ」


「うぅ……しょこまで言うなら……」


 ゴクッ。勢いよく喉を鳴らし、水を一杯一気飲みする。


「ん……んっ!?」


 その瞬間、回る頭。アカネさんとの忙しい仕事の日々の中で手に入れてしまった、特異体質が目を覚ます。


「あれ? 私……何して?」


 それは、水を飲むことで一気に酔いを覚ます力。世のサラリーマンやおじさんおばさん達が喉から手が出るほど欲しいであろう能力。いきなりの仕事にも、お水一杯で備えることが出来る。当然身体の中からアルコールが抜けるわけではないけれど、意識だけは一時的に元に戻すことが出来る。


「ちょっ、アカネさん! そんなところで何して……ひゃあっ!? 涎垂らさないでくださいよ!!」


「ほよ〜? ミーちゃんもも肉……いただきまぁす……」


「わ、わぁっ!? おじさんすみません、もう一杯も貰います!!」


「お、おお? というか姉ちゃん、え? さっきまでベロベロに酔ってなかったか?」


「ああもう、アカネさん……ひゃっ! 太ももはむはむしないでくださいよぉ!!」


「ふへ、ふへへぇ……ちゅーっ♡」


「……ああ、これあれだな。邪魔したら俺という存在そのものが消されかねないやつだな。姉ちゃん、水まだあるからここに置いていくぞ」


「あ、ありがとうございま────ひゃぁぁぁっ!!」


 ショートパンツから飛び出た素肌の太ももに、アカネさんの唾液が伝う。唇はちゅうちゅうと吸い付いていて、くすぐったいを通り越して怖い。少なくとも人にお見せして良い光景ではない。


「離れて、くださいって! ちょ、力強っ!?」


「ふふっ、ふふふふふふふふふっ。ミーちゃんの太ももは誰にも渡しゃなぃ……」


「ほ、本当にダメですからこれは! 多分私がこうさせたんだと思いますけど! お願いですから離れてくださいぃ!!!」




 半分夢の中のアカネさんは本当に手強くて。純粋無垢な顔で太ももをちゅーちゅーされた私はその後、なんとか力づくでその小さな身体を引き剥がしたけれど。気づいた頃には内ももにクッキリとしたキスマークがついてしまっていて……。キャリーケースを身体の前に向けながら服で押さえ、周りから生暖かい目を向けられつつフラフラのアカネさんをおんぶして旅館へと向かったのだった。

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