第136話 大人な二人の小旅行1
136話 大人な二人の小旅行1
「ね〜ぇ〜。まだ着かないの〜?」
「何回目ですか、それ。あと三十分くらいですって」
深夜から車を走らせ、パーキングエリアでの仮眠を挟みつつおよそ六時間。朝の日差しに当てられながら私たちが向かう先は、日頃の疲れを癒す天国エデン。
本当なら私は、サキさんと和人さんをあの場に置いて行くのに大反対だった。けれどそんな私の意志は、アカネさんのとある提案によって簡単に崩れることになる。
回想始め
「じゃあ早速支度してここを出るよ! 明日は二人で楽しもう!」
昨晩、私はアカネさんに二人を置いて行く計画(一応存在は事前に聞かされていた)の実行を宣言され、渋々荷物を片付けていた。
私としては二人とこうやってオフに旅行というのはとても楽しかったし、明日も一緒に海で遊びたかった。だけれど、それを凌駕してしまう存在を突きつけられたのである。
「地酒祭り。ミーちゃん絶対行きたがるだろうなぁと思って事前に調べておいたのだ!」
そう、これだ。
私は日本酒が大好きだ。アカネさんに振り回されたり仕事が詰まっていた日の夜なんかに一人で晩酌をしたり、まあアカネさんとも呑んだり。世の中のサラリーマンにとってのビール以上の存在価値が、私の中にはある。
だけど地元のスーパーや量販店なんかで買える種類には限界があって、ネット通販で買うのもどこか抵抗が。そんな私の状況を知っての、アカネさんからの提案だ。
地酒祭り。なんだそれ。死ぬほど行きたい。何を捨ててでも行きたい。仮に仕事や打ち合わせがあったとしても全部無視して一人で高速道路に乗る。しかも全国からご当地のお酒が集結するらしいじゃないか。普段コッソリしている日本酒巡りでは見られないものと、きっとたくさん出会うことができる。
距離? そんなもの関係ない。日本の中にあるなら車で頑張りさえすれば行ける。それだけの価値が、その祭りにはある。
「日本酒……ゴクリッ」
「ふふっ、ほぉら。全国各地から選りすぐりの日本酒たちが勢揃いだよぉ。しかも私の奢りで何を何本買っても許されるよぉ〜」
「じゅるっ、じゅるるっ」
はい、回想終わり。
こういった経緯があり、私は今アカネさんと車の中にいる。本当はもう呑み潰れて帰るつもりだからタクシーで来たかったのだが、流石に深夜だとそうすぐにとはいかなかった。
まあでも、今は朝の八時前。昼まで宴を堪能しつつ、その後は祭り会場の近くにある温泉宿に宿泊。仮眠なしで走れば三時間で和人さんたちのところに戻れるから、早朝にチェックアウト予定だ。
ずさんなアカネさんにしては完璧なプラン。きっと彼女なりに私のことを考えて企画してくれたのだろう。
ならば楽しまなければ無作法というもの。普段忙しい分、今日はここで思いっきり羽を伸ばさせてもらおう。
「ミーちゃん、涎出てるよ……」
「ふぇっ!?」
しまった、楽しみすぎてつい。
「もぉ、やっぱりミーちゃんも心の中で相当はしゃいでるんだねぇ」
「そ、そんなことはっ……じゅるっ」
「ぷふっ。まあ楽しみにしてくれてるのは良いことだからね。今日はお姉さんの奢り! 普段のお礼も込めてとことんまで呑み尽くしてヨシ!!」
私とアカネさんの、一日日本酒旅行。開始である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます