第134話 二人きりの海水浴7
134話 二人きりの海水浴7
荷物を全て置き、ジャージを脱ぎ捨てた俺達は二人で浅瀬に水を浸ける。
「ひゃっ、冷た……」
「……ていっ」
「ひにゃぁぁんっ!?」
普段から体温が高く水との温度差が激しいせいか、サキは中々前に進まない。
そんなちょびちょびと少しずつ水に深く入っていく無防備な背中に、そっと水をかけてみた。
「ちょっと和人! 何し、ふにゃ、ぁぁっ!!」
「遅い遅ーい。さ、もっと深く行ってみよー」
「やめ、やめっ……!」
華奢な両肩を掴み、上から海水に押し付ける。すると相変わらず力の弱いサキは徐々の姿勢は徐々に落ちていき、やがて崩れた膝からお腹周りまでが水に染まった。
「冷たいっ! 和人っ! 冷たいよぉ!!」
「あははは、必死だなサキ。お前は臆病すぎるんだ。どうせ一気に慣れ────」
「こん、のぉ!」
「おわぁ!?」
だが、俺は油断してしまった。サキを弄るのに夢中になり、足元を言葉通り掬われる。両手で膝カックンからの押し込みをされ、俺は全身で海水に倒れ込んだ。
「冷っ、てぇ! サキてめぇッッ!!」
「ふ、ふんっ! 仕返しだよ!」
「ぐぬぬ……サキのくせに……」
非力なサキにしてやられ、俺はどこか申し訳なさがありつつも胸を張るその姿に悔しさを向ける。
白ビキニに身を包み、ポニーテールに髪をまとめているいつもとは違った姿。くそ、なんだあのしてやったり顔! 可愛い!!
「ふふん、和人さん足腰弱いにぇえ。ぷぷぷっ」
「だーっ! 笑ったな!? そんな奴にはこうだ!」
「ぃにゃっ!?」
自信満々の顔に、手のひらで掬った水を思いっきりかける。怯んだサキは目を擦るが、復活の隙は与えない。
「ばしゃばしゃずるいっ! このっ!」
「甘いわっ!」
気づけば二人して全身びしょびしょになるまで水をかけあって、あっという間に息切れしていた。
もっとこう……カップルの水のかけあいってきゃっきゃうふふな感じの緩いもののはずなのだが。疲れ切った俺達は肩で息をしながら、その相手の酷く疲れた顔を見て思う。
なんて情けない顔なのだろう、と。
「ぐぞっ……やっぱりもっと普段から運動しないとな……」
「わ、私足つりそう。さっきからピクピクしてて、怖いぃ……」
そう、ここにいる二人はどちらも基本的に圧倒的インドア派。そういえば前に夜遊びで動き回った後も、次の日腕がすぐ筋肉痛になったっけ。
体感ではもう小一時間以上こうしていたのだが、一度テントに戻りスマホで時間を見るとまだ経過時間は三十分。たったそれだけの時間遊ぶだけで二人ともこうなってしまうなんて……やっぱりもうちょっと運動した方がよさそうだ。
「ちょっと休むか、サキ。俺なんか飲み物買ってくるわ」
「んー……お願い……」
タオルで身体を拭き、テントの上でだらしなく寝転がるサキに見送られて。俺はその場を離れる。
だけどその時は、サキをその場に一人置いておくということが何を意味するのかをちゃんと理解できていなかったのだ。
「おい、見ろよあの子。めちゃくちゃ可愛くね?」
「だな。さっきまで男といたけど、やっとどっかいったし。行こーぜ」
下劣に笑う、褐色肌の筋肉男二人組。その存在に気づくことができずにそこを離れてしまったことを俺は……後悔することになる。
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