第131話 二人きりの海水浴4
131話 二人きりの海水浴4
「ねぇ和人。和人ぉ? 早く売店見に行こうよぉ」
「ちょ、ちょっと待ってくれマジで。あと一分。あと一分で鎮めるから……」
サキとの濃厚なキスをして、無意識にも膨張してしまった息子。はやる気持ちが加速して肩を揺らしてくる彼女さんは俺をテントから出そうと躍起になっているが、今は動けるはずもない。
申し訳ない気持ちにはなったが、これはサキも悪いと思う。付き合い始めてそれなりに時間は経過しているけれど、キスにはいつまで経っても慣れない。しかも彼女自ら求めてきて、あんなに濃厚に舌を絡められたら。反応してしまうのも、仕方ないことなのだ。
「もぉ。何を縮こまって……あっ……」
かあぁ、とサキの顔が赤く染まる。どうやらむっつりな彼女は何かを察してしまったらしい。それからは俺が色々と収まるまで、じっと待ってくれていた。普段は鈍感な彼女だが、そういった知識はしれっと持っているのである。
「よ、よし。サキ、行こうか」
「……うん」
少し照れくさくなりながら、俺達は二人でテントを出る。
俺はそのままの格好で、サキは上着を羽織って。気づけば人の増えていた海岸を海とは逆側に進み、売店へと足を進めた。
ここには飲食店だけではなく、お土産屋さんもある。海にも勿論入るのだが、外にある飲食店とは違い完全に屋内にあるお土産屋さんに入るには、身体を拭かなければならない。だからまずはそこだけ先に見て、というわけだ。
「和人? 手、繋ご?」
「お、おぅ」
それにしても、さっきから周りの視線が凄い。日焼けしたパリピや運動部っぽい奴、あとは彼女を横に連れている奴まで。四方八方から男の視線が押し寄せてくる。
そして勿論、それの収束する場所はサキ。次に俺。一度可愛いものに目を向けてから、それの隣にいる俺への嫉妬の目線を飛ばしてくる。いやはや、俺の彼女が可愛すぎてすみませんなぁ。
なんて調子に乗ってたのも束の間。サキが俺の頬を指でツンツンとつつく。少し膨らんでいるその可愛い頰を見るに、どうやら周りをキョロキョロして自分以外を見ている俺の様子が少し気に入らないらしい。
「和人、今他の人の水着見てたでしょ」
「え!? 誰のも見てないぞ!?」
「ほんとかなぁ。さっきからなんかニヤニヤしてるけど……?」
「そ、それは本当に違くてだな! その……男がみんなサキのことを見てるからさ。なんか自分の彼女が周りを魅了してるってのが、嬉しかったというか」
「へっ……?」
想定外の返しだったのだろう。サキの身体が一瞬固まる。そして俺からゆっくりと目線を外すと、口もごもごもとさせながら小さくつぶやいた。
「この視線……和人に見惚れてるんじゃなかったんだ……」
「ん? 何か言ったか?」
「なんでも! なんでもないっ!!」
きゅぅっ、と俺の手を握る力が強くなる。なんだかよく分からないが、多分周りに見られているというのが恥ずかしいんだろうな。
(もし絡んでくる輩がいたら、俺が守らないと。絶対危ない目には合わせないからな、サキ!!)
(和人をナンパするために近づいてくる女の子がいたらどうしよう。その時は私が頑張らなきゃ……だよね)
互いを想い、想われて。微妙なすれ違いと振りまいている糖分オーラに気づかないまま、俺達は進んでいく。
魅惑の商品達の並ぶ、鮮やかな売店へと。
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