第128話 二人きりの海水浴1
128話 二人きりの海水浴1
「「海だーーーっっ!!!」」
俺とサキの、子供のような声がシンクロする。
アカネさんとの電話を終え、腹拵えも済ませた俺たちはすぐに用意をして旅館を飛び出た。
何ともまあ準備のいい事で、アカネさんが女将さんに託したのはあの時のスマホだけではなかった。
後々渡されたのはワンタッチで簡単に開くことのできる野外用テントと、海の家で使える飲食券二千円分。俺はそのテントを肩に下げ、サキはタオルと着替えの入った鞄を持って。数分の徒歩ののち、今こうして海の目の前にたどり着いたのであった。
夏休みということもありそれなりに人は多かったが、まだまだ海岸には陣取れる場所が山ほど残っている。時間が早かったことも幸いしているのだろう。早速海の家から遠すぎず近すぎずの中々に良い位置にテントを陣取り、荷物を置いて一息。
「和人、テント重くなかった? 疲れてない?」
「ん、大丈夫大丈夫。サキこそご飯食べて急に出てきちゃったけど、大丈夫だったか?」
「うん、大丈夫! 私も海、楽しみでいてもたってもいられなかったから!」
水色のワンピースに身を包み、天使のような笑顔を見せたサキはそう言ってテントの中でゴソゴソと荷物を漁る。
何か忘れ物でもしたのだろうかと思っていると、中から出てきたのはクリームの入った容器。日焼け止めだ。
「日焼け止め、塗るのか?」
「そりゃ勿論塗るよぉ。元々塗ってるけど、肌を出すからもう一度、ね。和人も塗る〜?」
「んにゃ、俺はいいや。あんまり焼けたことないし、多分ちょい顔赤くなるくらいで済む」
俺がそう答えると、サキは了解のサインを出して半袖で露出している腕や首周りに、クリームを塗り込んでいく。
なんだろう。大したことはしていないはずなのに、その細い腕が体の節々を移動していくのを見ていると、何故か心がざわついた。
……いや、なんだろうじゃない。その理由は明確じゃないか。海×彼女×日焼け止め。その式の示すものは────
「和人ぉ、日焼け止め……塗るの手伝ってもらってもいい?」
「っ! はい! 喜んで!!」
日焼け止め塗り塗りイベントだ。どちらかと言えばサンオイルを塗る方が主流かもしれないが、あれは製品的に少しずつ日焼けをするよう工夫されているもの。完全に真っ白なその肌を守りたいサキ相手ならば、日焼け止めクリームの方が自然だ。
「……目がえっち。やっぱりやめようかな」
「そんなっ!? おま、男のロマンを奪うのかぁ!?」
「ろ、ロマンって。まあ私身体硬いから背中全然届かないし、頼むけど……」
そう言ってサキは、あらかじめワンピースの下に着ていた水着姿を露わにする。
前にモールデートをした時に俺が丹精込めて選んだ神器、白ビキニ。ワンピースを上にあげながら脱ぎ、それが現れた瞬間の破壊力たるや。こんなの、どんな男でも悩殺確定だ。
「ね、ねぇ和人。その……恥ずかしい、からさ。テント閉めてほしい」
「え? お、おぉ」
サキに言われるがまま、俺はテントの出入り口のチャックを閉め、外の景色を完全に遮断する。
青色の布で包まれた、心許ない小さな密閉空間。そんな中でサキは少し恥ずかしそうに横になり、無防備な背中を晒す。
サキの、上下白ビキニの身体。うつ伏せになっていても存在感の絶えないたわわに、それとは相反してスラりと細い腰元。そしてその少し下には、小さすぎず大きすぎずの控えめな主張をする可愛いお尻と、柔らかそうな太ももに細く綺麗な脚。
どこを見ても最高で、どこを見ても悪いことをしている気持ちになる。サキは真剣に日焼け止めを塗ってほしいだけだというのに、かくいう俺は煩悩まみれで脳がショート寸前だ。
外と完全に遮断されているこの状況もよくない。恥ずかしい姿を他の人に見られたくない気持ちは分かるのだが……俺からすれば背徳感が増してしまって、余計におかしくなってしまいそうになる。
「ん、んっ……。紐、取れた。じゃあ和人、お願い……」
「スゥー……」
開始早々ハードルの高いイベントに襲われて、俺は冷や汗を垂らしながらそっと息を整えながらも。手の中でゆっくりと、クリームを捏ねるのだった。
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