第127話 本当のプレゼント
127話 本当のプレゼント
『まず、結論から言って私達は明日の朝にはそっちに戻るから安心してくれていいよん。つまりお義兄様とサキちゃんが二人っきりで動けないのは、今日だけってわけ』
「いやいや、今日動けないだけでもう安心できないんですが。俺達、旅館に引きこもるんですか?」
『ふっふっふ、二人がそうしたいならそれでもいいけどね。でも今日、何する予定だったか覚えてる?』
覚えていないわけがない。
何故なら今日こそ、俺がこの旅行で最も楽しみにしていた日だったからだ。
「海に行く日です! 確か温泉街を下りてすぐの、ここからも見えてるあの海に……あっ」
『お、気づいたかな? 私の本当の狙いに』
俺達が動けないのは今日のみ。そして元来の予定として目指すはずだった場所は、徒歩の距離である。
つまり、はなから車の運転など必要なかったという事だ。仮に四人で海を目指すとなっても、まず間違いなく歩いて行くことだろう。
水着姿のサキと遊ぶことができる、至高の場所である海。きっと俺がめちゃくちゃ楽しみにしていることはアカネさんも気づいていたはずだ。
もしかして、アカネさんは────
『私、思ったんだよ。この二泊三日の旅行は私が用意してプレゼントしたものだけど、昨日一日だけを見ればそれは完全じゃない。周りを何も気にせず、百パーセント二人で楽しんでもらうにはこれが一番だって』
(……気を遣って、くれたのか)
サキも俺も、アカネさん達の事を迷惑だとか、邪魔だなんてこれっぽっちも思っていない。むしろ一緒にいて楽しいし、騒がしいけれど昨日だって心の底から四人で来れてよかったと思っていた。
でも、アカネさんからすればそれは自分へのご褒美にもなっていて、俺達に無意識だとしても気を遣わせてしまうと考えた。その末に決行されたのが、この逃避行だったというわけだろう。
たしかにそこまで説明された上でだったとしても、俺とサキはきっと二人がどこかへ行くのを止めてしまう。それを分かっていたからこそそれは秘密裏に、俺達の知らないところで行われたのだ。
「アカネさん……」
『ふふっ、せっかくの誕生日プレゼントなんだから、二人でたっぷり海を満喫してきてよ! 私はもう充分、色んな思い出を貰ったしさ!!』
「っ……はい!!」
気づけば、さっきまでの怒りは消えていた。隣であんぐりとしていたサキも″二人で″という言葉に目を輝かせ、俺の顔とスマホの画面を交互にハイテンションで見つめている。
四人で騒がしく遊ぶのもいいが、せっかく気を遣ってこんな状況を作ってもらえたのだ。全力で二人きりを楽しまなければ、失礼というものだろう。
「ありがとうございます、アカネさん!」
『うむ。良いってことよ! あ、言い忘れてたけどお義兄様。ちゃんとサキちゃんの水着写真……送ってね?』
「ふにゃっ!?」
「勿論です。活きのいいのを仕入れておきます!!」
「ちょ、和人!? さっきまですごく良い話風だったのに急に何言い出してるの!?!?」
世界一好きになった女の子と過ごす、初めての海。いっぱい遊んで、いっぱい食べて。いっぱい楽しもう。
サキと一緒にやりたいことはいっぱいある。今日はそれを出来る限りたくさんやって、夜にはまたこの旅館でのんびり過ごす。アカネさんが与えてくれた二人きりの一日を、目一杯楽しまなければ!
『んじゃ、そろそろ切るね! あっ、そのスマホはお義兄様にあげる! ゲームに使うなり音楽プレイヤーにするなり、好きにしてねっ! では!!』
ツー、ツー、ツーッ。アカネさんの元気いっぱいの声と共に、そこで通話は終了した。
なんだかんだと怒涛の展開の連続だったが、その全てが知らされた今。俺とサキが考えていることは一つだ。
「お腹すいた! 女将さん呼んで朝ごはんもらおうぜ、サキ!!」
「うんっ!? う、うん!! まだいまひとつ頭が整理できてないけど、たしかにお腹すいた!! 食べよ食べよ!!」
何をするにもまずは、腹ごしらえからだ。今日一日遊び尽くすために、まずは元気を蓄えるとしよう。
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