第123話 魅惑の朝
123話 魅惑の朝
一夜明けて、翌朝。
「むにゃ……かじゅ、とぉ……」
二人でお風呂に入り、二つの布団を並べて共に眠りについたはずだというのに。俺の世界一可愛い彼女は、腕の中で小さな寝言を呟いている。
「うっ……腕痛っ」
少し顔を上げて布団の向こうを見てみてると、案の定サキが寝ていたはずの布団はもぬけの殻。きっと寝ている間にこちらへ寝返りを打って潜り込んでしまったのだろう。
おかげさまで頭に敷かれ続けた右腕は痺れていて少し痛いが、その対価を払うに相応しいお宝が今、目の前にはある。
「スゥー……」
はだけた旅館着から覗くのは、半分以上も露出した綺麗な双丘と吸い込まれそうになる深い谷間。涎を垂らしながら子供のようにすやすやと眠る可愛い顔の下で、凶器が先端を除いて丸見えだ。
(ほんと、コイツは自分の破壊力をちゃんと認識してほしいもんだな……)
昨日だって、これまでだって。サキの魅力が胸だけとかそういう話では無いが、何度これを向けられて我慢が効かなくなりそうになったことか。俺だって普通に年頃の男なのだから、少しは″そういうことになる″可能性も考えてほしい。まあ、多分信頼してくれてることの表れではあるんだろうけど。
だけどな、サキ。目の前でこんなものを見せられて俺が何もしないと思ったら大間違いだ。たまにはやってやる。
「……」
カシャッ。
(ふふ、ふふふふふっ。やってやったぞ!)
手に握っているのはスマートフォン。今、そのレンズを通して一枚の写真がフォルダに保存された。
サキのはだけた胸元に、涎を垂らして眠るだらしない顔。それらを一つにまとめた総合芸術品を、撮ってやったのだ。
サキはたまに俺の前で恥ずかしい姿を見せてはくれるものの、それを撮らせてくれたことは一度もなかった。言うならばこれは俺からの、初めての反逆だ。
疑う余地はない。俺の勝ちだ(何の勝負をしてるのかさっぱりだが)。
「う、うぅん。あぁう」
と、そろそろ胸元を隠してあげようかと手を伸ばしたその時。サキが小さく唸り、ぼんやりと目を開ける。
「かじゅと、しゃん? なんで私の布団にいるのぉ?」
「ばか、逆だ逆。お前が俺の布団にいるんだよ」
「んー?」
もぞもぞ、キョロキョロと不思議な挙動を見せた後、サキはその虚な目で俺に急接近。そして自分の頭の下にある俺の右腕にそっと頬擦りすると、匂いを嗅いだ。
「かじゅとの匂い……かじゅとの、かっこいぃ顔ぉ……」
きゅっ。俺の服の胸元を掴み、サキは更に擦り寄る。そしてゼロ距離まで近づいてから、そっと俺の唇を奪った。
「えへへっ、朝からキスしちゃったぁ」
「っ……」
酔いは覚めているはず。恐らくは寝ぼけているのか。にへぇ、と笑いながらまた幸せそうに俺を抱きしめて頬擦りをしてくる姿はたまらない。
……いや、本当にたまらない。実はと言うと起きた時から息子も全力で起立してる。今もなお、布を必死に押し退けながら。
「ありぇ? なんかお腹に、変な硬いのが……」
「ご、ごめんサキ! 俺、トイレッッ!!」
「うぇ? かじゅとぉ〜?」
息子に手を伸ばそうとしたサキから逃げるように、俺は布団を後にした。
普段のただむっつりなだけのサキならその先に発展したりはしないだろうが、今は何をしでかしてくるかわからない。
(ぐぬぬ、ぐぬぬぬぬ……)
仕方ない。とりあえず……一度スッキリしてから考えよう。
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