第120話 大人なサキさんと甘酔い風呂3

120話 大人なサキさんと甘酔い風呂3



「えへへ……気持ち、いぃ……」


 ぴっとりと俺の腕に吸い付く柔肌と、タオル越しにもハッキリと伝わってくる豊満な胸。こんなの犯罪だ。一度えちえち警察にしょっ引かれた方がいい。いや何を考えてるんだ俺は。なんだえちえち警察って。


「むー、和人しゃん黙んないでよぉ。ほんと、よわよわなんだからぁ」


「よ、弱々なんかじゃないぞ。これくらい全然ヨユーだ。へのかっぱだ」


「そう? じゃぁ……」


 ぎゅぅぅ。更に、腕にかかる圧力が強まる。サキはその身で俺に擦り寄ると、すぐ横の壁まで追いやって閉じ込める。顔は「にへぇ」と笑っていて、確信犯だった。


 コイツは俺が下手に反撃できない事を、知っているのだ。


 何故かって? たとえ俺が無理やりサキを引き離したとしても悲しい顔をされればきっともう一度抱き寄せてしまうし、反撃に乗じて更に過激なスキンシップをとられようもんなら確実に息子が起立する。


「和人……好き。すんっ、すんすんっ……」


「お、おい! 匂い嗅ぐなって!!」


 ひくひくと小さく動く鼻が、俺の肩に近づいてくる。サキは一瞬俺の顔を見上げて、やめろと言った言葉を完全に無視してまた顔を埋めた。


「温泉のいい匂いと、和人の……大好きな人の匂いがどっちも感じられる。ずっと、こうしていたいよぉ」


 湯煙の中で揺れ動く細身な身体は、少しずつ、少しずつ俺の身体にのしかかるようにしてゼロ距離へと迫る。腕の重圧もやっと緩くなったかと思いきや、次は胸板に柔らかいものが押し当てられてもう俺の身体は限界寸前だ。


 でも、そんなことはそっちのけでサキの猛攻は続く。俺の背中に両腕を回し、抱きついて。肩から首筋に移動してきた顔が、俺の目を見て離さない。


「キス、しよ?」


「だ、ダメだぞ。ほんとに……」


「らって今日、まだ一回もシてないもん。和人は私とキスするの……嫌?」


「っぐ……!」


 嫌なわけがない。サキとのキスなんて一日に何回しても嫌になるわけがないし、というか本音を言えば何回でも無限にしたい。当然今もめちゃくちゃしたいに決まってる。


 でも、これ以上は本当にダメだ。さっきからもう、気がおかしくなってしまいそうなほどにサキにメロメロで……それこそ″何をしてしまってもおかしくないくらい″魅了されてる。好きが溢れて、止まらなくなってしまいそうで怖い。


 可愛い。つぶらな瞳も、ひくひくと動く小さな鼻も、艶やかな唇も。全部全部可愛くて、求めたくなる。


「嫌、じゃないけど。せめてお風呂上がってからにしないか? こんな格好の時にキスなんて……」


「二人で初めてエッチなキスした時も、お風呂だったよ?」


「ん、んぅ。それはそうなんだが……」


「じゃあやっぱり、嫌なの? 私は毎日和人とキスしないと、寂しくて心がキューってなっちゃうんだよ? 和人は、違うの?」


 ずるい。卑怯だ。なんで急に、そんな寂しそうに目を潤ませるんだ。


 さっきまでは、俺を揶揄って楽しんでたくせに。それなのに、いきなりキスを求めてきて、寂しいとか。


……もう、断れない。たとえこれが作戦で、キスを終えた瞬間にあの悪戯じみた顔に戻ったとしても。そんなの、関係ない。どうだっていい。今はただ、俺のことを求めてくれている大好きな人に、寂しい思いなんて絶対にさせたくない。


「……分かった。一回だけだぞ」


「ほんと? じゃあ和人から、来てほしいな」


「じゃあ目を閉じてくれ」


「ん……」


 俺に抱きつくのをやめ、ちょこんとお湯の中で正座したサキは、静かに目を閉じる。手は後ろで組まれていて、少しだけ身体は前のめり。そんな可愛い姿で、俺からキスをしてくれるのを待っていた。


 ドクン、ドクンと心臓が跳ねている。これまで何度もしてきた行為だというのに、何が俺をここまで緊張させるのか。分からないけれど……


(一生、勝てる気がしないな)




 サキが好きだからキスをする。それだけで、よかった。

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