第119話 大人なサキさんと甘酔い風呂2

119話 大人なサキさんと甘酔い風呂2



「うわー、広い!!」


「すっご。部屋風呂でこれか……」


 シャワー二つに浴槽一つ。字面だけならあまり凄さは伝わらないかもしれないが、一つの浴槽の大きさが普通とは違うのである。


 檜で出来た綺麗なその浴槽の大きさは、人が五、六人入っても全く問題のないサイズ。建物の大きさと部屋の大きさが明らかに釣り合ってない気がしていたのだが、こういうことだった。俺たちが寝泊まりする部屋より少しだけ小さいくらいの浴室が場所をとっていたのだ。


「ねーねー、早く入ろ! 早く早くっ!」


「落ち着け落ち着け。まずはかけ湯してからなー」


 はぁい、と無邪気な笑顔で返事をしたサキの肩元から、そっとお湯をかけてあげると、茶色いバスタオルが濃く染まる。


 サキの豊満なものを上から全て隠しきるにはサイズが足りなかったため、チラリと上から一部分がお湯に濡れながら覗いていて中々に目線のやり場に困る。まあ、初めはタオルを巻こうとすらしなかったのでこれでも充分マシになった方だが。


「? 和人、どうかしたの?」


「え? いや、何でもない」


 どうやらサキの胸のことを考えていたら少しフリーズしてしまっていたらしい。サキに声をかけられて我に戻ると、ジィーと何やら懐疑的な目線を向けられていた。


「もしかして……私のおっぱい、見てたの?」


「!? は、はぁ!? そんなわけ────」


「ふふっ、和人分かりやすい。そんなところも好きだよ〜!」


「ぐっ……揶揄いやがって」


 いつもならすぐに恥ずかしがって顔を赤くするところだろうに、サキは小っ恥ずかしい台詞を吐いた後でも平然と笑っている。なんだか、調子が狂うな。


「わぁ、あったかぁい。和人和人っ、このお湯すっごく気持ちいいよぉ〜!」


 ただ……普段とは違った言葉遣い、雰囲気をしていても、やっぱり可愛い。サキのくせに揶揄ってきたりちょっと生意気だけど、さっきの言葉は不覚にもドキッとしてしまった。


(全く、厄介だな……。俺が惚れた女の子は、何してても可愛い)


 仕方ない。今日一晩は甘酔いしてるサキにとことん付き合うとしよう。もし彼女が暴走して積極的な行動に出てきたとしたら明日、正気に戻ったところにその話をして照れ顔をとことん拝んでやる。


「むぅ、和人も早く来てよぉ! 二人でポカポカ、気持ちよくなろぉ〜?」


「はいはい、今行くから。甘えん坊なところは変わらないんだな、ほんと」


 一緒に気持ちよく、か。深い意味は無いと分かっていても、言葉の破壊力が尋常じゃないな。いちいち反応してしまわないよう、気をつけないと。


────特に、下の方は。


◇◆◇◆


「ふえぇぇぇぇ……気持ちいぃぃぃぃ……」


「おぉぉぉ、染みるぅぅ……」


 四十一度の天然温泉が、俺たちの身体を包み込む。温度としてはそれほど高くはないはずなのだが、肩まで浸かるとすぐに身体中に熱が浸透した。


 特にサキ。今日は一日動き回った上に配信までしたのだから、お酒でアドレナリンが出ていてもその体内には相当な疲れが溜まっていたようだ。仕事終わりのおじさんのような声(とは言っても結局可愛いのだが)をあげて、親に溶けそうになっていた。


「ぬるぬるのお湯、気持ち良すぎるよぉ。ねえ和人ぉ、私の身体溶けてないぃ?」


「今は大丈夫だけど、いつ溶けてもおかしくなさそうだなぁ。目がトロトロになってるぞお〜」


「ふえへへへぇっ。らってポカポカ凄いんらもぉん……」


 全身を脱力してふにゃふにゃになっているサキは、そう言って俺の肩に身を寄せる。いつも頻繁にお風呂には一緒に入って、なんなら狭い浴槽でぎゅうぎゅう詰めになりながら密着し合っているというのに。何故いつもよりこんなにドキドキするのだろう。


 いや、理由は分かってる。さっきからほんのりとピンク色に染まっているサキの顔が、妙に色っぽいせいだ。たまにパタパタと手で顔を仰いだり、胸元のタオルを少し開いて空気を入れたり。そういった一つ一つの動作が俺の心臓を飛び跳ねさせているせいだ。


「……えいっ」


「ふぁっ!?」


 ぎゅう。俺のことを誘惑する魅惑の身体が、突然腕にまとわりつく。


 サキの胸に挟まれた腕は、抜こうとしてもあまりの圧に動かすことすらできない。


「ぎゅっ、するって言ったよね」


「っっっうっ!!?」


「この方が……あったかいもん」



 甘酔いサキさんの俺への攻撃は、まだまだ終わる気配を見せない。

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