第118話 大人なサキさんと甘酔い風呂1

118話 大人なサキさんと甘酔い風呂1



「むぅ……あう」


 うとうととしているサキを壁に寄り添わせて、俺はその隙に布団を引く。二人分のを準備し終えるとサキは四つん這いになりながらハイハイで近づいてきて、俺の腰に巻きついた。


「和人ぉ? 身体、熱い……」


「え? お、おぉ」


 きゅっ。後ろから伸びてきたサキの手が、俺の手を掴む。


 手のひら同士を合わせるとサキのポカポカな暖かさが伝わってきて、心地いい。


「ほんと、サキは眠くなるとすぐに身体が熱くなるな。赤ちゃんみたいだ」


「ぶぅ。赤ちゃんじゃないもん。ちゃんと私、大人だもんっ」


 ぷっくりと頬を膨らませて不満をアピール。俺の腰元からにゅっと出てきたその風船のように膨らんだ顔をぽよぽよと手でつついてやると、そっぽを向いてしまった。


 というか、サキの「だもん」はなんで破壊力をしてるんだ。いろんな相乗効果があるのも相まって、その言葉を聞いた途端心臓がうるさくなり始めた。こんな風に普段は滅多に出さない言葉を急に使われると、可愛すぎて胸が破裂しそうになる。サキの存在そのものが俺にとって弱点だと分かってやっているのだろうか。


「ごめんごめん。サキはちゃんと大人だよ。お酒だって飲めるしな」


「……本当に思ってる?」


「おう。今日も(甘酒)呑んでたし」


「えへへ、なら許すぅ」


 まだ少し酔っているな。身体がふにゃふにゃで表情も甘く溶けそうだ。まあ今日一日の疲れも溜まっているだろうし、このまま寝かしつけるとするか。


 そんなことを考えながら小さな頭を撫でていると、サキはむくむくっ、と起き上がって俺の首元に顔を当てる。サキ特有の甘い良い匂いが鼻腔をくすぐり、俺の頰はほのかに赤く染まった。


「ねぇ、もう寝ちゃおうなんて考えてないよね? まだ絶対に寝かせないよ?」


「な、何言ってんだ。お前もう眠いんじゃないのか?」


「私は全然大丈夫らよ。だって……和人との大事な約束、まだ果たせてない」


「……覚えてたのか」


 もうお酒のせいですっかり忘れているだろうと思っていた、配信前のあの約束。


『……あとで、一緒に部屋のお風呂入ろうね。その……一人で寂しかったでしょ?』


 甘酒に身体を火照らせながらも、ちゃんとサキは覚えててくれていたらしい。当然俺は覚えていたし、何ならそれが叶わなくなると思って少しがっかりしていたところだ。


 サキのことを考えるなら寝かしつけてやったほうがいいのかもしれないが……まあ、今日は前みたいな酷い酔い方じゃないしな。大丈夫だろう。多分。


「よし、分かった。二人でお風呂堪能するか!」


「やったぁ! 和人とお風呂らー!!」


 はしゃぎながらも俺から離れないサキの手を引き、二人で立ち上がる。


 この部屋のお風呂はさっきの露天風呂の後だと小さく感じてしまうかもしれないが、それでも家のお風呂よりははるかに大きい。そんなお風呂にサキと二人きりなんて、夢みたいだ。


「えへへ、実は私配信中も楽しみにしてたんらぁ。和人とぎゅーってしながら、ぽかぽかのお風呂に入るの!」


「ぎゅーってするのか!?」


「うんっ! だってその方が絶対気持ちいいもん!」


「……おっふ」


 お風呂でぎゅーっ、か。そうか。バスタオル一枚でほぼ裸も同然のサキと……。あれ? 俺は今もしかして、とんでもないモンスターとお風呂に入ろうとしてるんじゃないのか!?


「ほら、行こっ!」


 考え始めた時にはもう遅かった。サキはちゃっちゃとバスタオルを手に、俺を捕まえて連れて行く。



 甘酒の酔いが残り、少しだけ幼い口調になっていて……少しだけ、積極的な。そんな彼女とお風呂に入るということの重大さを、俺はまだ理解しきれていなかったのだ。

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