第117話 アヤ羽晩酌配信4

117話 アヤ羽晩酌配信4



『さて、じゃあそろそろいい時間だし。配信終わろうかな〜』


『うえぇ、もうれすかぁ?』


『だってアヤカちゃん、眠そうだよ? 枠の時間もいい感じだし、もうお布団ですやすやしたいんじゃない?』


『う゛ぅ~……』


 暴走寸前の二人の赤面、興奮の入り混じったプレイス配信は、一時間という短い枠ながらも既にかなりの好成績を残していた。


 普段の配信サイトで配信している同業者の多くを抑え、ゲームジャンルの世界トレンド四位。それに加えて同接者二万人越えでプレイスがキャパオーバーした結果、音のバグやそもそもリスナーとして参加すらできなかった人もいたそうだ。いつ歯止めが利かなくなるか分からないという爆弾は抱えつつも、やはりお酒の力は絶大。アヤカにいたっては初めて見せる姿だったということもあり、柊親衛隊の呟きを見ると発狂者続出で一部の者は人間すらやめそうになっている。


『ふふっ、それとも私の膝の上でおねんねする? アヤカちゃんほどじゃないけど、それなりに柔らかいし気持ちいと思うよ?』


『ん~! 子ども扱いしないれくださいっ! アヤカは本当に眠くなんてないんれすっ!!』


:つよがりアヤカちゃんすこっ!!


:アヤカちゃんが寝ないなら代わりに私がッッッ! アカネさんの太もも……げへへへへ


:気を抜くとすぐに百合百合を始めるなこのふたりは……いいぞもっとやれ('ω')



:お゛ぇ……可愛すぎて臓物吐きそう……


『よぉし、ジャスト一時間! このままだと私だけの可愛いアヤカちゃんのでろでろ姿を見せすぎちゃうから、終わろうと思うよん! みんな、今日は来てくれて本当にありがとー!!』


『あぅ……アヤカはまだ元気らのにぃ……』


『ではみはさん、ばぁーい!!』


 こうして、二人の晩酌プレイス配信は一時間という枠の終わりを迎えると共に終了した。


 それと同時に、俺とミーさんは二人の元へと向かう。


「お、二人とも来たね! おつかれ〜!」


「お疲れ様です、アカネさん。横の酔っ払いを引き取りに来ました」


「う゛ぅ……かじゅとぉ!」


「おわっ!?」


 むぎゅぅぅ。顔をほんのりと赤くしたサキが、正面から俺を激しく抱擁する。もにゅもにゅっ、と押し付けられる双丘から必死に意識を逸らしながら、俺はその頭をそっと撫でて宥めた。


「あはは、サキちゃんったらお義兄様にぴっとりだねぇ。私としては……ちょっと妬けちゃうなぁ」


「馬鹿なこと言わないでください。はい、お水ですよ」


「おっ、ありがと」


 テキパキとコップ入りの水を用意したミーさんは、アカネさんにそれを渡してからこちらに近寄ってくる。


 その手にはもう一つ、コップが。どうやらサキの分も用意してくれたようだ。


「サキ、おーい。ミーさんがお水くれたぞ。お前も飲んどけー」


「む、ぁう。ミーしゃん優しぃ。ありがとぉございましゅ……」


「っ!? い、いえ……っ!」


 俺の腰元にナマコのように張り付くサキはそう言ってミーさんから水を受け取ると、口をつけてちびちびとお水を飲み込む。そして何故かサキと言葉を交わし目を合わせた瞬間から、ミーさんは少し照れ臭そうに目を逸らしていた。


「ふふ。ミーちゃんもサキちゃんの可愛さに当てられちゃったかぁ。どう? お酒が入るとさらにヤバいでしょ」


「……否定、できませんね。反則ですよこれは」


「えへへぇ。お水、おいひぃ」


 どうやらもう、アカネさんの方は完全に酔いが覚めているようだな。まだ少し顔は赤いけど、テンションは普段通りだ(まあ普段通りも充分テンション高いけど)。


 ただ、問題はサキだ。飲んだのが甘酒だから前の時みたいに理性を失って壊れるレベルまでは酔ってないみたいだが、身体はぽかぽかと熱いし、普段と比べてなんというかこう……ちょっと、バカっぽい。まあぽよぽよとしていながらも甘えん坊なこの感じも、めちゃくちゃ可愛いから別にいいんだけどな。


「さてさて、今日はもう解散かな。お義兄様、サキちゃんの介抱お願いできる?」


「はい、責任持って連れて帰りますね。今日はそんなに酔ってる感じしないですし、きっと一眠りしたらケロッと治ってますよ」


「「それで、そんなに酔ってる感じしない……?」」


 ああ、そうか。二人はサキが本気で酔ったらどこまで壊れてしまうか知らないんだっけ。まあアカネさんは喜びそうだし、今度その時のことは教えてあげるとしよう。


「じゃあ、アカネさん、ミーさん。お休みなさい。今日は本当にありがとうございました。明日も、お願いします!」


「はいほーい。いい夢見るんだよ〜」


「お休みなさい」


「お休みなしゃぁい」




 まだフラフラとしていて足取りの悪いサキに肩を貸しながら、最後にもう一度だけ感謝の意を込めて、二人に頭を下げて。俺たちは自室へと戻るのだった。

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